近年、日本では少子高齢化が進み就労人口は年々減少しています。また「人生100年時代」という言葉があるように、今後は高齢者も含めたすべての国民に活躍の場があり、高齢者の就労促進にも取り組んでいく必要があります。
今回の記事では、定年の引き上げや廃止によって支給される助成金制度についてご紹介します。助成金を活用することで、高齢者が活躍できる職場づくりをしていきましょう。
高齢者雇用に関する助成金制度の社会的背景とは?
まず始めに、どのような経緯で今回ご紹介する助成金が制度化されたかについて解説します。
日本ではかつて60歳で定年を迎えることが主流でしたが、少子化による就労人口の減少などによって、近年企業は定年の引き上げや定年制度の撤廃を求められるようになりました。
しかし基本的に体力や能力が衰え、健康面のリスクも高い高齢者は、企業にとって受け入れのハードルが高いと言えます。
そこで国は、意欲と能力があるかぎり高齢者も働くことのできる生涯現役社会を実現するため、定年の引き上げや制度廃止を行った企業に対し助成する制度を作りました。
65歳超雇用推進助成金とは?
次に、実際にどのような助成金制度が活用できるかについてご紹介します。
今回ご紹介するのは、65歳超雇用推進助成金です。
この助成金は、定年引上げや高齢者の雇用管理制度の整備など、高齢者の雇用推進を図るための取組みを行う事業主を対象としたものです。
取り組み内容によって、65歳超継続雇用促進コース、高年齢者評価制度等雇用管理改善コース、高年齢者無期雇用転換コースの3つに分かれています。
参考:厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139692.html
65歳超継続雇用促進コースについて
次に、それぞれのコースについて助成内容や要件についてご紹介します。
まず一つ目に、65歳超継続雇用促進コースです。
このコースでは、65歳以上への定年の引上げや定年制度の廃止、66歳以上の継続雇用制度の導入などが助成の対象となります。
継続雇用制度の導入は、定年後も引き続き雇用されることを希望するすべての従業員を継続雇用する必要があります。
対象事業主に関してもいくつか要件があります。
まずは雇用保険適用事業所の事業主であることが必要です。
また、主な要件として高年齢者雇用推進員の選任と高齢者の雇用管理に関する措置を実施している事業主であることが求められます。
具体的には、どんな人にも分かりやすい作業施設や作業方法に改善することや、高齢者の職業能力開発・向上のための教育訓練実施などが措置として挙げられます。
他に、労働保険の未納がないこと、申請日までに1年以上継続雇用している60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること等が申請要件として挙げられます。
このような細かな申請要件は事前に確認が必要なため、検討の際は厚生労働省のHPで最新情報を確認しましょう。
また、このコースでは取り組みのいずれかを就業規則または労働協約に規定し、実施することで助成金が支給されます。
労働者の少ない場合、そもそも就業規則の作成をしていない事業所もあるかもしれませんが、このコースでは申請する1年前には就業規則や労働協約を書面により定めていることが条件となっています。注意しましょう。
続いて受給額についてです。
導入した取り組み内容や取り組みが適用された労働者の年齢によって、助成金の受給額は異なります。
例えば、65歳以上への定年引き上げを10人以上の被保険者に対して行った際、30万円が受給されます。
また同じ人数でも、取り組み内容が70歳以上への定年引上げまたは定年制度の廃止となると、受給金額は160万円に上がります。
このように定年の引き上げ年齢を上げれば上げるほど、受給金額は高くなるシステムとなっています。
対象となる高齢従業員の人数は、10人未満か10人以上かで分かれており、具体的な人数は受給金額に関係しません。
そのため、1年以上継続雇用している60歳以上の雇用保険被保険者が1名でもいる事業主は、積極的にこの助成金を活用すると良いでしょう。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コースについて
二つ目に、高年齢者評価制度等雇用管理改善コースです。
このコースは、高齢者の雇用推進を図るため、賃金や人事処遇制度、労働時間のような雇用管理制度の整備を実施した事業主に対して助成する制度です。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コースも先述したコースと同様、労働協約または就業規則に定め、実施が確認でき次第助成金が支給されます。
主な受給要件としては、「雇用管理整備計画」の作成・提出があります。この計画書は、今後どのようにして高齢者の雇用機会を増大させていくかを示すものです。
具体的には、能力評価や労働時間に関する雇用管理制度を導入することや、医師もしくは歯科医師による健康診断を実施するための制度導入などが挙げられます。
高年齢者無期雇用転換コース
三つ目に、高年齢者無期雇用転換コースです。
このコースは、有期雇用から無期雇用の契約内容に変更することで、高齢者の雇用の安定を図る制度です。
事業内で働く50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換させた場合に助成金が支給されます。
このコースで助成金を得るには、まず「無期雇用転換計画」を作成し、高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出して認定を受ける必要があります。
当機構理事長から認定を得たら、続いてその計画書に基づき、実施期間内に高齢の有期契約労働者を無期契約労働者に変更します。
基本的にはこの二つが主な要件ですが、他にも細かな受給要件があるため、事前に確認してから申請するようにしましょう。
各都道府県の事例
国から支給される助成金以外にも、各都道府県で制度化されている支援もあります。
今回は埼玉県が提供する「生涯現役実践助成金」についてご紹介します。
生涯現役実践助成金とは
生涯現役実践助成金とは、定年や継続雇用制度の見直しに取り組む企業に対して助成金を交付する、埼玉県独自の支援取り組みです。
助成対象となる取り組みは、定年を廃止、定年を70歳以上へ引き上げ、希望者全員の継続雇用の上限年齢を75歳以上へ引き上げの3つです。
先述した「65歳超継続雇用促進コース」と同じような取組内容ではありますが、今回ご紹介する埼玉県の助成金の方が少しハードルが高いと言えるでしょう。
また助成対象となる企業は、次のすべての項目に該当する必要があります。
・埼玉県内に主たる事業所があること
・埼玉県内の事業所に勤務する常用雇用者が10人以上いること(※1)(うち、60歳以上が1人以上(※2))
・埼玉県内の事業所に勤務する常用雇用者のうち、5年以内に定年年齢に達する正社員が1人以上
・シニア活躍推進宣言企業
※1 期間を定めずに雇用されている、又は1か月を超える期間を定めて雇用されており、1年を超えて雇用されていること。
※2 正社員又は正社員を定年後に継続雇用されている者で、雇用保険の被保険者であること。
「シニア活躍推進宣言企業」とは、高齢者が活躍するため積極的に取り組みを行う企業を、埼玉県が認定する制度です。
生涯現役実践助成金を申請するには、別途申し込みが必要となるため、注意するようにしましょう。
次に受給額についてです。
1社あたりの交付額は、埼玉県内の事業所に勤務する常用雇用者数によって異なります。
例えば、雇用者数が10〜29人の場合は一律50万円が支給されます。
そして毎年申請受付期間が定められており、予算額の上限に達した場合は、期間中でも募集を締め切る場合があります。
この助成金については、就業規則の改正や取り組みの実施は、実際に助成金の交付が決定してからとなります。そのため、生涯現役実践助成金の受給を考えている際は、まずは申請書を期間中早めに提出すると良いでしょう。
参考:埼玉県「生涯現役実践助成金」のご案内
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0813/joseikin/joseikin.html
おわりに
今回は定年の引き上げや定年制度廃止によって支給される助成金制度について、詳しくご紹介しました。シニアの従業員への対応は多くの事業主が難しさを感じる点でしょう。
しかし高齢者が活躍できる職場にすることは、就労人口が減少傾向にある背景を踏まえると、長期的に会社にとって大きなメリットになります。
また高齢者が生き生きとやりがいをもって働ける職場は、その他の多くの社員にとっても魅力的な職場となるでしょう。
また今回ご紹介した助成金によって、環境整備にかかる費用は一部補填することができます。
ぜひ助成金を上手く活用しながら、高齢者が輝ける職場づくりを目指してください。