文部科学省「産学官連携の最新の動向について」には、産学連携の市場価値は1.9兆円まで伸びると予測されています。市場価値が伸びている産学連携とは何なのでしょうか?ビジネスに役立てるために、産学連携について知識を蓄えておきましょう。この記事では、産学連携のメリット・デメリットから連携方法まで解説します。
産学連携とは
産学連携(さんがくれんけい)とは、新製品の開発や新事業の創出を目的として、教育機関または研究機関と民間企業が連携することをいいます。
2004年の国立大学法人法、2006年の新教育基本法の制定により、研究成果の還元が教育機関・研究機関の氏名と明記されるようになり産学連携が活発化してきました。
2016年には経済産業省と文部科学省が「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定して、産学連携はビジネスの1つとして成立してきました。
産学連携に政府や地方公共団体も含めたものを、産官学連携(さんかんがくれんけい)といいます。
産学連携における企業側のメリット
産学連携における企業側のメリットには、以下のようなものが挙げられます。
研究者をパートナーにできる
産学連携では、教育機関や研究機関の研究者をビジネスパートナーに選べます。企業が独自で新製品を開発したり、新規事業を創出したりする場合は優秀な人材が必要になります。このような人材を確保することは容易なことではありません。
しかし、産学連携であれば大学教員や研究者など分野のスペシャリストとビジネスパートナーになれます。つまり、研究スキルを得ることができるのです。
教育機関・研究機関の設備を利用できる
産学連携であれば、教育機関・研究機関にある設備を低コストで利用できます。新製品の開発や新規事業の創出のためには研究設備が必要になりますが、自社で用意することは容易ではありません。
分野や研究内容により異なりますが、設備の中には数千万円するものもあります。これらの研究設備を低コストで借りられることも企業側のメリットです。
公的資金の支援が望める
産学連携の資金は企業側が負担しなければいけませんが、企業と教育機関または研究機関が連携する場合は、公的資金の支援が望めます。
その理由は、産学連携により国や自治体は「産業の創出」「雇用の創出」「地域活性化」などの恩恵を受けられるためです。資金支援をしてもらいやすいことも、産学連携における企業側のメリットです。
産学連携における企業側のデメリット
産学連携における企業側のデメリットには、以下のようなものが挙げられます。
研究体制が構築しにくい
産学連携を行う場合、企業と教育機関・研究機関が連携するための体制を整備することが難しいです。
例えば、大学に相談したい内容があるけれど、タイムリーに相談ができないなどの問題が発生します。このような問題を解決するために、研究の課題をリスト化して、研究者に相談できるようにしておくなどの準備をしなければいけません。
全てを内製化すれば、このような問題は発生しません。研究体制が構築しにくいことは、産学連携のデメリットとなります。
研究シーズに対する目利きが難しい
大学の研究シーズ(将来、実を結ぶ可能性がある研究)に対する目利きができなければ、産学連携は失敗に終わります。研究を事業化するまでに解決すべき課題を把握したり、他の研究と比較して優位性を見極めたりしなければいけません。
どのような教育機関・研究機関と産学連携するかによって、ビジネスの成否が左右されていきます。この研究シーズに対する目利きが難しいことが、産学連携のデメリットとなります。
産学連携のための資金が必要になる
産学連携を行う場合は、企業側が研究資金を支払わなければいけません。
東京商工会議所「産学公連携相談窓口利用実績」によると、産学連携の予算は以下の通りです。
[予算規模別 産学連携相談企業の内訳]
- 50万円以下:19.1%
- 100万円以下:19.1%
- 300万円以下:31.9%
- 500万円以下:4.3%
- 1,000万円以下:6.4%
- 1,001万円以上:4.3%
- 不明:14.9%
50万円や100万円などの予算で産学連携は行えますが、分野によっては高い研究資金を用意しなければいけません。
産学連携の方法
教育機関または研究機関と連携したい場合は、以下の3つの方法があります。各機関には産学連携相談窓口が設置されているため、まずは相談してみると良いでしょう。
共同研究を行う
共同研究とは、企業と教育機関または研究機関が、共通の課題について共同研究していくことをいいます。大学の研究室に自社の社員を常駐させたり、逆に自社の研究室に専門家を招いたりできます。共同研究で成果を出した場合は、公表しなければいけません。研究成果の公表時期や方法については協議して定めていきます。
受託研究を依頼する
受託研究とは、企業が抱えている課題について、教育機関または研究機関に研究してもらうことをいいます。研究を全て委託できるため、社内の業務負担が減らせます。しかし、研究費用は企業側が支払わなければいけず、高額で負担が大きくなりがちです。
技術指導を依頼する
技術指導とは、教育機関や研究機関の専門家をお招きして、技術に対する指導や助言をもらうことをいいます。研究ノウハウやコンサル等をしてもらえるため、研究方法が知りたい方におすすめです。単発で終わり、専門家が保有しているノウハウがもらえます。
産学連携の企業事例
産学連携の説明をしてきましたが、どのような事例があるのでしょうか?ここでは、産学連携の事例をご紹介します。
筑波大学×株式会社トヨタ自動車
日本最大手の自動車メーカーの株式会社トヨタ自動車は、新たな分野を探索して、社会のエコシステムを構築するために、筑波大学と連携しています。2017年4月には、未来社会工学開発研究センターを開設しました。
研究センターには、大学研究者だけでなく、トヨタ自動車の職員も常駐しています。異分野融合をして、Society5.0を実現できるモビリティインフラの実現に向けて産学連携をしています。
千葉大学×株式会社リコー
複合機やカメラなど光学機器を製造する株式会社リコーは、千葉大学との共同研究の実績を保有しています。千葉大学からリコーに包括連携が打診されたことから、産学連携が行われ始めました。
千葉大学の研究力とリコーの商品化・技術開発力を融合して、組織のボトムアップするために、産学連携をしています。共同研究と合わせて合計7件の共同事業を実施しています。
東京大学×株式会社日立製作所
電機メーカーの株式会社日立製作所は、教育機関・研究機関など外部の知識を活用するオープンイノベーションを重視する経営方針に切り替えました。
政府が提唱する「Society5.0」を実現するために、2016年に「日立東大ラボ」を東京大学内に設置。産学協創推進本部が在籍しており、産学連携に関与しています。人文社会系を含む多様な分野の研究を実施しています。
次世代エネルギーシステムプロジェクトでは、データ駆動型電力システムを考案し、関係省庁や電力会社に発表しました。
産学連携の実際について
例えば、富山大学においては、大手企業出身者を中心にコーディネーターとして揃えており、企業のニーズに応じた提案ができる体制を整えています。詳細はこちらの記事「産学連携のメリットとは?富山大学 学術研究・産学連携本部へインタビュー」をご覧ください。
民間企業との共同研究実施件数ランキング
【経済産業省】大学ファクトブック(ランキング)2023によれば、民間企業との共同研究実施件数について上位3つの大学は1位が東京大学、2位が東北大学、3位が京都大学という結果になりました。
産学連携の実用化事例
産学官連携活動の実用化事例を5つご紹介いたします。
千葉大学 :施設園芸ハウス用薬剤入り防虫ネットの開発
千葉大学はダイオ化成と農研機構と共同で、エトフェンプロックスという虫が嫌がる薬剤を練り込んだ糸で織り上げた薬剤入り防虫ネット『虫バリア』を開発。暑く蒸れるハウス内で通気性を保ちながら、虫をよけ、丈夫な防虫ネットは、全国から引き合いがある商品となりました。
静岡県立大学:自然薯の副産物である「むかご」の有効活用(むかご羊羹の開発)
食品栄養価学部と、とろろ汁屋「元祖 丁子屋」が連携して、有効成分「ジオスゲニン」を分析、大腸がんに効果があることを突き止め、むかご羊羹を開発、販売に至りました。
福岡女子大学:赤ちゃんだし「Oiseries」の開発
博多の味本舗との産学連携で、赤ちゃんの味覚と嗅覚を育てるために「Oiseries」を開発。嗜好性を形成する時期に、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、幼児期の4段階を開発、商品化、ニーズの高い商品の販売が実現しました。
山梨大学 :地域特産の「あけぼの大豆」のルーツ探索と栽培適地の研究によるブランド力向上
農業生産法人レクラみのぶが、山梨大学に身延町特産のあけぼの大豆を守るため、山梨大学に品種の遺伝子解析と土壌状態の研究依頼、あけぼの大豆など農産物の生産で生計が立つモデルを確立することを目的に事業を進めています。
豊橋技術科学大学 :施設園芸作物の収穫作業支援ロボットの研究開発(収穫からパッキングまで摘み取り現場で行うセル型農業ロボット)
シンフォニアテクノロジー(航空部品)が豊橋技術科学大学と共同で開発した事業です。この事業では、大葉の摘み取り後から出荷までの作業を支援するロボットを開発しました。AIカメラで大葉の大きさや形、色などを検査し、基準を満たすか判断し選別するのに成功し、大葉農家などに圧倒的な作業効率をもたらしました。
産学連携に関する本は?
以下の本が産学連携に関する本になります。参考にしていただければと思います。
まとめ
今回は、産学連携のメリット・デメリットについて解説しました。教育機関や研究機関と連携すれば、自社にはないノウハウが得られて、新製品の開発や新事業の創出がしやすくなります。
高い価値が見込まれている産学連携を成功させるためには、体制を整備したり、公的資金を活用したりする必要があります。これらができれば、ビジネスで成果を生み出すことができるでしょう。ぜひ、これを機会に産学連携を検討してみてください。
※参考文献
『Biz-Create 産学連携とは?企業と大学の連携方法とメリットについて解説』
『信州大学 産学連携のメリット』
『科学技術・学術基盤調査研究室 レポート』
『信州大学 産学連携相談窓口』
『経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室 「組織」対「組織」の本格的な産学連携構築プロセス実例集』
千葉大学 IMO
産学連携・地域貢献 | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学
福岡女子大学産学官地域連携センター
産学官連携