新型コロナウィルスの流行などもあり、ここ数年で電子マネーでの決済が急速に浸透しました。Suicaなど元々生活に馴染みのあった交通系IC以外にも、数多くのキャンペーンを仕掛けるpaypayや、ECなどのポイントサービスと連携した楽天payなど、その種類も多岐に渡ります。
こうした動きの中で、最近資本を有した企業だけではなく、小売店や自治体などが独自の電子マネーを発行するという動きも増えてきています。
本記事では、キャッシュレス決済が浸透した経緯をはじめとして、電子マネーを使うメリット、また独自の電子マネーを発行する具体的な方法と事例を見ていきます。
電子マネーの利用が増えた経緯
近年、利用頻度が増えてきた電子マネーですが、どのような経緯で現金に代わる決済手段として一般化していったのでしょうか。
まず、電子マネー決済をふくむキャッシュレス決済全体のあゆみについて、少し振り返っていきましょう。
キャッシュレス決済の歴史
キャッシュレス決済全体の歴史を振り返ると、契機となったのはやはり1950年代にアメリカで導入されたクレジットカードです。
現金を使わずに支払いをするという発想は、戦後金融システムが勃興していくなかで誕生しました。
電子マネーの源流は、それから40年以上後の1996年、ソニーが開発した非接触ICカードの「FeliCa」にあると言われています。
改札や決済端末にかざすだけで、高速にデータを送受信する技術がここで開発されました。
今では当たり前となっている、瞬間的なデータの書き換えや厳重なセキュリティーも当初は、決済そのものを別の形に変貌させる画期的な技術として世に発表されたのです。
現在でも、Suicaや楽天Edyといったカード型の電子マネーは、FeliCaの技術を活用しています。
このようにキャッシュレス決済の芽生えは早かった日本ですが、ガラパゴスケータイの隆盛やiPhoneの爆発的な使用台数の増加によって、日本の規格がスタンダードとして採用される機会に恵まれず、キャッシュレス決済後進国となっているのが現状です。
参考:ペイサポ
参考:sony_felica
キャッシュレス決済全体をめぐる現状
電子マネー決済は、キャッシュレス決済のなかの一分類になります。
クレジットカード決済と電子マネーの決定的な違いは、前者がポストペイ型なのに対して、後者はプリペイド型、あるいは口座と連携した即時払い型であるという点です。
クレジットカード決済などを含むキャッシュレス決済の普及について、実は政府も数値目標を設定して後押ししています。
経済産業省は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80パーセントまで引き上げることを目標としているのです。
2022年に発表された経済産業省の統計によると、2021年のキャッシュレス決済比率は30パーセントを超えて、2025年までの目標に対して順調に進捗しています。
内訳としては、クレジットカード、デビットカードが大多数を占めているものの、電子マネー・コード決済の比率もここ10年でどんどんシェアを伸ばし、現在は全体のうちの3.8パーセントを占めています。
堅調な進捗率と言える一方で、世界的にみると日本はまだまだキャッシュレス決済の比率が低いとされています。
従来日本は現金の製造技術が高く、現金決済システム(POS)がよく整備されてきたことから、キャッシュレス決済に対するニーズが諸外国に比べて高くなかったというのが主な理由と推測されています。
2016年の段階で、先進国のほとんどはキャッシュレス決済比率は40パーセントを超え、驚くべきことに韓国では96.4%という浸透率でした。
参考:経済産業省
参考:manewaka
独自の電子マネーを導入するメリット
キャッシュレス決済の中でも少しずつシェアを増やしている電子マネーには、クレジットカードにはない利点があります。電子マネーはプリペイド型・即時引き落とし型として収支のコントロールがしやすく、スムーズに利用ができるというユーザビリティの観点において、とても優れていることがわかりました。
では、そんな電子マネーを企業が独自に導入するメリットとは、どのようなものがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
顧客データの取得
電子マネーというと、一見クレジットカードと変わらないのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、独自の電子マネーには実は大きなメリットがあります。
大規模事業者の電子マネーやクレジットカード決済の導入では、購買情報の公開が限定的であることに対して、独自の電子マネーを自社で導入すれば、決済データや購買データを全て活用することができるようになるのです。
データドリブンで的確なCRM施策の実施
自社がプラットフォーマーになり、ユーザーの支払い履歴を可視化することで、より効果的なクーポン施策を考案していくことができます。
元々チャージ式の電子マネーは、残高をきっかけに再来店を促すことができるので、副次的にリピーター促進の効果も期待できます。
こうした特性を生かしながら、データを活用してクーポン企画などを用意していくことで、ダイレクトなCRM構築が可能になります。
自社の電子マネーを導入すると、ユーザーとの接点も長く保つことができるようになるのです。
参考:ペイサポ
参考:pokepay
参考:pokepay_「オリジナル電子マネー」を導入する意味とは?
小売店や自治体が独自の電子マネーを発行した事例
小売店や自治体が電子マネーを独自に発行することで、利用者のロイヤリティを強められたり、情報伝達がスピーディーになったりと、さまざまな利点につながることがわかりました。
とはいえ導入に対して、開発費用がかかるのではないか?という不安もありますが、現在では、ポケペイをはじめとして独自の電子マネー発行サービスを提供する事業者も充実してきています。
最後に実際に独自の電子マネーを導入した事例を見ていきましょう。
一般社団法人 佐渡観光交流機構の「だっちゃコイン」
一般社団法人 佐渡観光交流機構は、佐渡の観光情報を発信したり、観光資源を開発している地域DMOです。
そんな佐渡観光交流機構が導入しているのが「さどまる倶楽部」という会員制度で、この会員制アプリのなかに、地域通貨「だっちゃコイン」という電子マネー機能が搭載されています。
佐渡島の島民はもちろんのこと、佐渡島外に住んでいる人も会員登録ができ、「だっちゃコイン」は佐渡市内での決済に使用することができます。
利用可能な加盟店は150店舗以上あることから、会員数も35000人を超えています。
島内の個人商店で気軽にキャッシュレス決済ができる利便性に加え、島内のサービス情報も得られ、通貨が余ったらSuicaに交換できるという点も、観光客が気軽に登録しやすい要因の一つかもしれません。
正確な店舗の営業情報になかなかアクセスしづらい地方観光の時にこそ、このように多くの店が加盟している決済サービスは一つのガイドとして、ツーリストの役に立ちます。
スモールビジネスだからこそ、よりユーザーと強固な関係性を構築できることから、こうした独自決済サービスの導入が規模の小ささを強みに変換してくれます。
参考:Datchacoin
参考:pokepay
まとめ
この記事では電子マネーをめぐる現状、電子マネーを企業が独自で導入するメリットなどを見てきました。
キャッシュレス決済の普及率がどんどん上がる中で、導入事業者にとってはCRM構築の手段にもなり、ユーザー視点でも使いやすい電子マネーは今後も利用者の増加が期待できる分野でしょう。
導入サポートサービスも充実しはじめた昨今、小規模事業者も早期に自社の電子マネー導入を検討してみてもよいかもしれません。