産学官連携の成功事例について

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近年、政府からの支援制度が充実してきていることもあって、産学官連携を実施する事業者も増えてきました。とはいえ、産学官連携に興味はあっても、実際に自社が行うとなると、ステークホルダーとの利害のすり合わせは上手くいくのか、どのような制度を利用したらいいのか、明確に想像できずに躊躇しているという事業者の方もいらっしゃるかもしれません。

今回の記事では、産学官連携を行うにあたり、どのような背景のもと、どういうステークホルダーと研究成果を出していけるかがわかる具体的な成功事例を見ていきます。

産学官連携とは

まず産学官連携とは、どのようなものか簡単に説明していきます。

産学官連携とは、民間企業と学校(高等専門学校や大学)が協力し合い、共同研究や商品開発などを推進していく取り組みのことです。民間企業と研究機関というそれぞれの知見が合わさることで、これまでにない技術開発が可能になったり、相互の人材育成に繋がったりするように、産学官連携にはさまざまなメリットがあります。

また、資金や設備、技術などの不足を補うことができたり、研究プロセスが効率化したりすることで、よりスピーディな技術開発を実現できるなど、効用は多岐に渡ります。

大学などの研究機関にとっても、企業とのコミュニケーションを通じて、市場や企業ニーズに沿った研究を行うことができるので、これまで培ってきた研究の成果を経済活動に結び付けられる機会を得られます。

日本では、平成18年の教育基本法改正において、初めて大学の役割に、「社会貢献(産学官連携等)」が明記されました。これが大きな契機となって、昨今、産学官連携では、税制上の優遇策や連携実績データの「見える化」といった政府の制度的支援もますます充実してきました。

次に、産学官連携が成功した事例をいくつか具体的に見ていきましょう。

参考:https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/sangakukeifu.html

生分解性に優れたポリ乳酸樹脂のフィルム化

大阪を拠点とする大八化学工業株式会社は、大阪産業技術研究所森之宮センターと連携してバイオマスプラスチック製品の開発につながる植物由来の可塑剤を開発しました。

開発の背景

現在主流となっている石油由来のプラスチックの代替物として海外を中心に開発が進んでいるのが、バイオマスプラスチックです。

大八化学工業株式会社は、1919年の創業から可塑剤開発のパイオニア企業として世界市場を牽引してきましたが、課題そのものの探査や研究機器の保有などには限りがありました。

そこで、大阪森之宮センターと協業して、補助金事業にも参画しながらの技術開発に取り組み始めました。

開発体制

大阪森之宮センターは、それまで培ってきたネットワークを生かして中小企業のコンソーシアムを構築し、特許化から、実用化技術開発、製品化、展示会出店など幅広い支援を大八化学工業株式会社に提供しました。

長年培ってきた技術には自信があったとしても、それを実際に実用化したり、一般の人も使えるような製品に落とし込んだり、さらにそれをプロモーションしていくというプロセスまで一社で担うのには限界があります。

そうした下流まで一気通貫して行えるマンパワーやノウハウがないことで、結局日の目を見る機会を得られなかった素晴らしい技術というのは実は数多くあるのかもしれません。

参画した補助金事業

大八化学工業株式会社は、本プロジェクトの推進に向けて、経済産業省による戦略的基盤技術高度化支援事業や、ものづくり中小企業製品開発支援補助金など複数の補助金事業に参画しました。

補助金事業に参画したことで、認知が上がるだけではなく、実際に新たな研究機器を導入することも可能になるなど、開発環境の充実にもつながりました。

補助金を活用した産学官連携は、それぞれのステークホルダーがもつ良さを一つの技術開発に結集させることで、より短期的に高品質な技術開発に繋がっていくのです。

参考:

https://www.kansai.meti.go.jp/2giki/sangiren/susume/2018_2_jireisyoukai.pdf

画像認識とAIを活用したパンの瞬時識別技術

技術の概要

焼きたてのパンには値札がつけられません。一方でベーカリーショップの多くは、パンを個包装していないのでバーコードを使用したPOSのレジシステムを採用することができませんでした。

また、ベーカリーショップはパンの種類が多いため、およそ100種類以上の商品と価格を常にスタッフが認識して、ミスなく会計を行うようになるまで研修に3か月ほど時間を要していました。また、会計処理は人為的なので、新人でなくてもうっかり会計ミスをしてしまうこともあります。

このような問題に対して、AI技術を活用して瞬時に商品を識別する技術開発に着手したのが、兵庫県の株式会社ブレインです。兵庫県立大学との共同研究によって開発が実現しました。

開発の背景

開発が開始された2008年当時は、実用化された画像識別技術は数少なく、さまざまな開発が各所で行われていたものの、実用化できるほどの精度や速度を満たすものはなかなか開発されていませんでした。

今回、開発に着手した株式会社ブレインは、当初パソコンショップとしてスタートし、次第に熟語変換ソフトの開発や円相場速報表示システムの開発などを手がけるようになった、比較的社歴が浅い小規模の会社です。

同社は、画像シミュレーションを得意として、ベーカリースキャン以前にも、先染織物デザインシステム「TEX-SIM」などを手がけるなどして、AIでの画像認識システムに注力し始めていました。このタイミングで産学官連携に乗り出しました。

技術の開発体制

ベーカリースキャンの開発は株式会社ブレインを中心に行われましたが、参画したステークホルダーは、POSレジメーカーやパンなどの製造企業7社と、兵庫県立大学など、およそ10者におよびます。

接触したパンを自動的に分離する技術、色や形などパンの特徴から識別に必要な要素を自動的に導き出す技術など、複数の技術が組み合わされることによってベーカリースキャンは開発されました。

上記のような基本的な技術に加え、より正確な検出を実現するために、識別装置にバックライトをつけ、半透明のトレーを採用することで、レジ周辺の環境光の影響を最小限に抑えられるなど、実用化に向けた細かい微調整まで行うことができました。

また、POSメーカーが参画してくれたことで、簡単な操作でパンの識別結果をレジに反映することが可能となりました。更に、これらのスキャン技術に合致した専用のPOSアプリの開発を実現し、技術の開発だけにとどまらず、実用化に向けた取り組みまで行うことができました。

補助金を活用することで産学官連携に

上記のような開発が加速した背景に、補助金を取得したことが挙げられています。ベーカリースキャンの開発は、2010年6月から2012年12月という約2年間、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)に参画しています。

サポイン事業とはサポーティングインダストリー事業の略称で、中小企業・小規模事業者が、大学や公設試験研究機関などと共同で国のものづくり基盤技術高度化につながるような研究開発、販路開拓などの取り組みを支援するものです。

これまで2,000件以上のプロジェクトを支援してきた実績があることから、産学官連携において公募に参加しやすい補助金プロジェクトの一つと言えるでしょう。

ベーカリースキャンは、キャッチーな技術がテーマであることから新聞をはじめとしたメディアでも取り上げられ、知名度が向上したことも、実用化に向けて社会的な期待の獲得につながりました。

参考:

https://www.kansai.meti.go.jp/2giki/sangiren/susume/2018_2_jireisyoukai.pdf

https://www.chusho.meti.go.jp/sapoin/index.php/about/

夏季でも生産できる米麹を利用したノンアルコール醸造飲料の開発

開発の背景

温度のコントロールや雑菌の繁殖を防ぐことができることから、これまで清酒の製造は主に冬季に限定されていました。それに伴って、蔵人の雇用も冬季限定で行うことが一般的でした。

しかし、近年雇用をめぐる環境や制度が変わったことで、季節限定で蔵人を雇用するということが難しくなってきました。とはいえ、夏季に酒造できるお酒はなく、雇用者の夏季の仕事を確保することもできずにいました。そこで、季節を問わずに製造できる清酒の開発が始まったのです。

「白い銀明水」の開発体制

京都の佐々木酒造株式会社が提供する「白い銀明水」は、京都の伝統的甘口清酒製造技術と最先端の計測分析技術が掛け合わされた結果、夏季でも生産できるノンアルコール醸造飲料として誕生しました。

最先端の計測分析技術によって米麹に含まれる数十種以上の透過酵素とタンパク質分解酵素を調べ、機能性成分を多く生産する塩麹を選抜し、従来の設備のまま醸造可能な製造工程を実現しました。

4年以上の開発期間を要し、種麹専門メーカーや和菓子製造業をはじめ、佐々木酒造、京都大学・京都府立大学、京都市産業技術研究所、京都高度技術研究所など研究機関だけでも3者以上が参画しました。

活用した補助金の種類

夏季も製造できる清酒またはノンアルコール醸造飲料の開発は、複数の補助金事業に参画しながら進められました。地域イノベーション創出研究開発事業への参画は2度あり、そのほかにも中小企業基盤整備機構機構 地域産業資源活用事業、ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金にも参画しています。

京都市産業技術研究所が企画し、開発支援したこの開発は、市中の中小企業が利用でき、また酒造業界全体に伝えていくという目的のもと行われてきました。こういった側面がさまざまな補助金事業とマッチし、複数の事業参画できた理由とも言えます。

まとめ

この記事では産学連携を行った際の成功事例を見てきました。産学連携は、さまざまな分野で行われており、開発される技術も多岐に渡ります。

国の支援なども積極的に受けられることから、技術開発を行う際は近道となります。ぜひ一度産学連携を検討してみてはいかがでしょうか。