大手メーカーにてDX導入プロジェクトを推進している現場の担当者が、経験をもとにDX導入を成功させるポイントについて語っています。
大手メーカーの本社IT部門で、DX導入を担当。「DX導入のプロジェクト立ち上げ〜プロジェクト失敗〜DX推進に向けた立て直し」までを経験した筆者が、経験をもとにDX導入を成功させるポイントをお話しします。
少子高齢化が進む一方で、競争が激化しているビジネス環境で日本の企業が生き残っていくためには、ビジネスモデルの変革が求められています。
その手段として、デジタル技術を活用して変革を行う「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進する企業が増えているのは、当然のことでしょう。しかし、「DX導入は企業変革が求められるので、成功は難しい」とも言われています。
実は、DXには成功に導く重要なポイントがあり、そのポイントを抑えずにDXを推進すると失敗に終わります。私の勤める会社はそのポイントを抑えずに推進したため、DX導入に失敗。現在プロジェクトを立て直して再検討中です。
そこでこの記事では、実際にDX導入に携わった著者が
・なぜDX導入が失敗したのか
・失敗から学んだ「成功に導く重要ポイント」
を実例に基づいて紹介します。D Xを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
■こんな方に読んで欲しい
ーDX導入に興味があって、他社事例を知りたい方
ーDX導入が決まっているので、「成功させるポイント」を知りたい方
ーDX導入をしたが、行き詰まりを感じている方
DX導入前の課題
私の会社は現在、販売・生産拠点が50カ国以上に100拠点以上あります。
各地域で個別のシステムが使用されており、システムのメンテナンスも個々の地域に任せている状況です。
経営数値(受注金額や在庫金額など)は、各拠点から収集したデータを中央集約システムの中で集計していますが、リアルタイムに確認できないという課題がありました。
また、そのシステムからの表示データは商品群やエリアで集計できないため、商品群の単位で経営数値を見たい場合には、データを一旦ダウンロードして加工する手間が発生していました。過去にはデータを取得するだけで2週間かかったこともあり、ビジネスチャンスを逃したことがありました。
DX導入に期待すること
一般的に、DX導入に期待することとして、以下があります。
・経理がデータを電子化して入力防止に繋げるというような「業務効率」
・営業が顧客情報をどこからでもアクセスできるようにする「新規の顧客拡大」
・開発が顧客のニーズを商品開発に反映させることで「より良い商品作り」
自社のプロジェクトで期待していたことは、リアルタイムで経営数値を確認することでした。そのためには「複数システムの一元化は必要」と経営陣は判断し、DX導入が決定されました。
ビジネスコンサルタントとも契約し、多額の資金をかけてDX推進はスタートしました。
DX導入の体制
複数のシステムの一元化を目的としたDX導入のプロジェクトは、本社のIT部門(以下、本社)が主導して検討を進めることになりました。
現場を担う事業部(生産部門や営業部門)は、本社が検討した内容の「承認者」という立場でした。
事業部が「承認者」の立場になったのは、D X検討プロジェクトにアサインできなかったからです。
当時、生産数以上に受注が入っている状況で、アロケーション業務(生産の優先順位や納期の優先順位を決める業務)に現場は追われていました。アロケーション業務は売上に直結する業務です。そのため「現場がアロケーション業務を優先することは仕方ない」と判断されて、本社とコンサルタントで検討する形となったのです。
DX導入の失敗
本社とコンサルタントでの検討は困難を極めました。
その理由は、「複数のシステムの一元化は、検討時間も手間もかかるので現在のビジネスの効率を下げる部分が多い」と考えられて、事業部から承認を得ることができなかったからです。
DX導入の「価値」をしっかりと明示できていなかったので、システム一元化のデメリットしか見られなかったのだと思います。
1年が経過しても、プロジェクトに大きな進展は見られませんでした。その結果、社長決心のもと一旦プロジェクトは休止となり、DX導入のスケジュールや体制の大幅な見直しとなりました。
DX導入の失敗の要因
多額の資金を投じてDX導入の検討を始めたのに、なぜ失敗したのでしょうか。
考えられる主な要因をご紹介します。
DX化がもたらす「価値」を明確にできなかった
グローバルに散在するシステムを一元化することを目的にして、DX推進はスタート。
しかし、さらにもっと具体的なDXの「価値」を社員に提示する必要があるのに、私どもの会社は、それが出来ていませんでした。具体的な「価値」とは、以下になります。
・なぜ必要なのか?
・いつまでに必要なのか?
・誰にとって必要なのか?
・何を達成するために必要なのか?
これらの「価値」を明確にできずに見切り発車したのが、失敗の要因だったと思います。
ビジネスモデルの実態を踏まえたDX案の策定ができなかった
本社とビジネスコンサルタントが主導でDX化の検討をスタートしました。つまり、現場を巻き込まずに検討していたのです。
現場のキーマンは、緊急度の高いアロケーション業務があったので、DX推進に参加できなかったのは仕方なかったとも言えます。
しかし、現場担当者の巻き込みは必要で、巻き込むためには、DX推進を主業務として取り組めるような環境の構築が必要でした。
DX導入を成功に導くポイント
次に、DX導入の失敗の要因から見えてくる「DX導入を成功に導くポイント」を、自社で現在実行している施策と共にご紹介します。
DX化の「価値」の明確化のために
・意識改革を行う
DXに取り組む全員の意識改革が必要です。
本社サイドは、「DXを推進することで自社のビジネスにどのような価値が生まれるのか」を考える意識が大切になります。
現場サイドは、「自社にとってなぜDXが必要なのか」を考えることが必要です。そのためには、自分ごととしてDXのプロジェクトを捉える意識改革が必要です。
・組織体制を見直す
意識改革のためには、本社サイドと事業部サイドのコミュニケーションを高める組織が必要です。
一般的に、以下のような方法があります。
1、PJを作る(バーチャル組織を作る)
2、正式な組織を作る
3、人材を出向させる
私どもは、「3、人材を出向させる」ことで組織体制の見直しに取り組みました。
事業部は、アロケーション業務のように緊急性の高い業務に追われていることが多く、DX導入の検討に取り組める人材を輩出することが難しいという問題がありました。
そこで、本社から事業部へ出向者を輩出し、DX化を検討する専門組織作りの必要性がありました。
実際に、私の上司や同僚たちの多くが国内・海外の事業部へ出向となりました。
出向者が増えたことで、以前より現場の業務(ビジネスモデル・ビジネスフロー)が明確になり、格段にDX化の検討が進めやすくなったのを実感しています。
ビジネスモデルの実態を踏まえたDX案の策定のために
・ナレッジの共有化
事業部と本社部門のナレッジを共有する仕組みとしては、「A s-Is」「ToーBe」のビジネスモデル・ビジネスフローを作成することをおすすめします。
「As-Is(アズーイズ)」とは、現状のビジネスモデルやビジネスフローの流れを表す。 |
「To-Be(トゥービー)とは、あるべき姿・理想の姿を表し、DX化によりどのようにビジネスモデルやビジネスフローが変わるのかを表したもの。 |
「A s-Is」「ToーBe」を作成することで、
・DX化によりどのような「価値」がもたらされるのかを明確にできる
・検討者全員が同じレベルで業務を理解した上でDX化を検討できる
・この二つのギャップを炙り出すことで検討課題を明確にできる
というメリットがあります。
・人材育成
ビジネスモデルを反映した改革案を創出するためには、
・事業部の業務知識(ビジネスモデルやビジネスフローなど)
・本社IT部門のIT知識(システムの仕様など)
の両方が必要となります。
組織体制の見直しにより、出向者を通してIT知識が事業部に共有されて人材育成に繋がっています。現在では事業部サイドが、システムの仕様を加味しながらTo-Be設計を行っています。
まとめ
私どもの会社では、DX推進が決まってから1年ほどプロジェクトを進めたものの、プロジェクトの進捗は芳しくなく一時中断。現在は立て直し中で、道半ばです。
DX推進を担当し、その経験を通して考える「DX導入を成功に導くポイント」をまとめると、以下の通りになります。
1)意識改革を行う
2)組織体制を見直す
3)ナレッジの共有化
4)人材育成
「DXは企業の本質から変えていく必要がある」とよく耳にしますが、上記4つのポイントを実現するためには、企業の本質の変革が必要であり、この言葉の通りだと実体験を通して思いました。
DX導入の参考にしていただけると嬉しいです。
編集部よりおまけ
DX化に向けた金融・医療・飲食などの課題や取組についてはこちらの記事でも詳しく解説されています。合わせてご確認ください。