日本の地方都市では、人口減少をはじめとする課題の解決方法として、行政サービスの効率化などにつながるスマートシティ構想の実現が進んでいます。現在各地で進められている地方におけるスマートシティ化とは、どういった背景から生まれたものなのでしょうか?今回の記事ではスマートシティー化にまつわるビジネスチャンスについても紹介していきます。
スマートシティとは
スマートシティ化とは、まちづくりにAIやIoTなどの先端的なICT(情報通信技術)を活用して、都市機能やサービスの高度化・効率化を目指す取り組みのことを指します。
現在、世界では1,000以上のスマートシティプロジェクトが推進されており、調査会社IDCの試算によると、2020年度のスマートシティ関連支出は、世界で1,240億ドル(約13兆円)に達する見込みです。
日本でも少子高齢化や総人口の減少、自然災害といった課題解決に向けてスマートシティ化が着目されており、実は2010年頃からさまざまな取り組みが始まりました。
当初は、エネルギー分野や防災分野に特化したプロジェクトが中心となっていましたが、昨今は実証実験の結果が蓄積されてきたことで、技術が先行しすぎて住民の目線に寄り添えていない、関連するビジネスモデルが確立できていないといった課題が明らかになってきました。
このような経緯を踏まえて、近年のスマートシティ化の取り組みにおいては、住民ファーストの視点に立つことと、地域の自治体、産業、研究機関が一体となった分野横断型で推進することが、特に重視されるようになりました。
スマートシティに欠かせないIoT
スマートシティにおいて、とりわけIoTという技術が重視されています。IoTとはInternet of Thingsの略称で「モノのインターネット」と和訳されるように、通信機器を含めた生活の中のあらゆるモノがインターネットに接続された状態を指しています。
IoT活用の概念を都市全体に押し広げたものがスマートシティだと理解されています。また、IoTという概念を起点に、生活、環境、経済、教育、交通、行政という6領域を基礎として、それぞれの連携を強化することを目指しています。
スマートシティ化が推進される背景
日本をはじめとした世界各国では、都市部への人口の集中が進んでいます。このように都市部に人口が集中すると、さまざまな社会課題が引き起こされることが懸念されています。
例えば、環境汚染やエネルギー不足、交通の問題、地方経済の停滞などが考えられます。こういった問題に加えて、日本においてはインフラ設備の老朽化や超高齢化社会への対応、自然災害への対策なども喫緊の課題として浮上しており、解決に向けたアクションが急務となっています。
これらの社会課題はより深刻化、複雑化しており、具体的なアクションや業務整備なくしては、今後の未来を前向きに構想していくことは難しいと判断されています。
このような背景に対して、特に、まちづくりに先端技術を取り入れることで、より良い社会実現に向かっていけるのではないかという一つの仮説検証実験がスマートシティ化と言えるでしょう。
スマートシティの実現によるメリット
スマートシティ化が実現できれば、国や自治体、そして市民は多くのメリットを享受できます。どのような利点が得られるのか、以下にまとめました。
持続可能な都市を実現できる
スマートシティ化によって、将来の世代にとって暮らしやすい都市を実現できます。ICTの活用を通してさまざまな社会課題が解決され、生活の質の向上につながるためです。
具体的には、交通渋滞、高齢者ケア、エネルギー不足など、今の社会が抱える課題を解決へと導き、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献するとされています。
防災や減災に役立てられる
自然災害のリスクがある地域では、スマートシティ化による防災や減災が期待できます。たとえば、地域の特定の箇所にIoTのセンサーやカメラを設置することで、河川の氾濫や土砂崩れなどの危険性について正確な情報を迅速にキャッチし、住人への的確な避難の促進が可能になります。
ほかにも、被災状況の把握や住民への情報共有など、先端技術を幅広く役立てることができます。
ビジネスチャンスの創出を期待できる
スマートシティ化により自治体や教育機関、そして民間企業の連携が進み、新たなビジネスが生まれる可能性が期待されています。官民連携が進むことで住民の利便性が向上し、また地元企業のビジネスチャンス創出や事業の活性化にもつながるでしょう。こうした影響は経済活性化にも繋がっていきます。
スマートシティ化を推進したことによって副次的に得られる効果として、ビジネスチャンスの拡大がありますが、これにはは非常に期待が寄せられています。
スマートシティ化で想定される課題
とはいえ、スマートシティ化には推進においてもさまざまな課題があると同時に、実現した後もリスクを伴う場合があります。こうしたネガティブな部分に関しても、正しく理解をしておくことが重要です。
都市機能停止のリスク
スマートシティ化では、さまざまなデータやシステムを一元化するため、システムトラブルやサイバー攻撃を受けた際に、都市機能全体が停止してしまう可能性があります。
サービス停止による住民生活への影響や情報の流出などの影響を考えると、事前に、こうした最悪の事態を回避するための仕組み作りも重要となることは明らかです。都市機能の維持に必要なデータやシステムの分散管理、ICTに依存しすぎないまちづくりなどが必要となります。
プライバシーへの配慮
スマートシティでは、幅広いデータを活用することで街の利便性が高まりますが、住民のプライバシーへの配慮も欠かせません。人によっては、知られたくない情報が収集されることに不安を感じる場合もあるでしょう。住民のプライバシーの確保は不可欠です。
住民自身の参画が求められる
スマートシティ化を推進するには、地域住民からの賛同を得る必要があります。施策では住民の協力が求められる場面も数多く存在するため、先端技術に親しみやすい若年層だけでなく、高齢者層の住民にも広く働きかけ、スマートシティ推進への理解を得ることができるようにする必要があります。
地方のスマートシティ化に関わるビジネス領域
地域経済が活性化していくという観点においても、非常に魅力があふれているスマートシティ化です。どのような分野がスマートシティ化と関わってくるのでしょうか?具体的にご紹介していきます。
インフラ
地方におけるスマートシティ化は、エネルギー効率の向上、公共交通機関の改善、廃棄物管理の最適化など、インフラストラクチャーのスマート化を進めることで、持続可能な都市開発を目指しています。
これに伴い、スマートメーターの設置、エネルギーモニタリングシステムの導入、交通システムの改善など、関連するテクノロジーを提供する企業には需要が生まれるでしょう。
ビル・設備
スマートシティ化の一環として、建物をより効率的で持続可能なものにする必要があります。
地方のビルオーナーや開発業者は、エネルギー管理システム、スマートライティング、セキュリティシステム、施設管理システムなど、設備にかかわるスマートテクノロジーに投資する機会が生まれ、そのような領域にはビジネスチャンスが発生するでしょう。
モビリティ
地方の交通インフラストラクチャーの改善も重要な要素です。スマートシティ化に伴い、自動運転技術、電動車両充電インフラ、交通データ分析、共有モビリティサービスなど、モビリティ関連のビジネスチャンスが生まれます。
地方自治体や参画企業は、持続可能な交通システムの構築と運営に向けた新しいソリューションを求めています。
観光
地方の観光業は、スマートシティ化によって大いに変革される可能性があります。観光地の情報提供や案内、観光客の体験向上、交通や宿泊の予約、観光関連のデータ分析などをサポートするスマート観光ソリューションが求められます。
地元の観光業者やテクノロジー企業は、これらの需要に応えるために、新しいビジネスモデルを開発できるでしょう。
農業
地方では農業が重要な産業です。スマートシティ化によって、農業の効率化や持続可能性が求められます。
センサーシステム、農業データ分析、自動化技術などを活用したスマート農業ソリューションは、負担軽減によって担い手不足問題の解消にもつながるかもしれません。地方の農業業者は事業改革の機会となり、センサーやデータ分析を強みとする企業にとっては、魅力的なビジネスチャンスとなるでしょう。
医療・健康
大都市部に比べ、医療リソースが限られており、少子高齢化の進展も著しい地方においては、医療や住民の健康に関わる領域はスマートシティの導入の期待が大きい分野です。
ヘルスケアデータの収集と分析、大都市部の専門家との連携やオンライン診察、住民の普段のヘルス情報を収集するデバイスなど、この領域には、さまざまなビジネスチャンスがあるでしょう。
まとめ
今回の記事では、地方におけるスマートシティ化構想の概要や背景、メリット・デメリットに加えて、関連してくるビジネス領域について詳しくご紹介してきました。
スマートシティ化は市民の生活が効率化され、社会課題の解決につながります。そのスコープには、ビジネスチャンスの創出や地域経済の活性化も含まれていることから、さまざまな事業者が注目すべき社会実験だと言えるでしょう。今のうちからスマートシティ構想の概要や動向についてチェックし、参画のチャンスを探ってみるのも良いかもしれません。