近年企業経営で注目が集まっているリスキリング。2022年の10月には、岸田文雄現総理大臣もリスキリングのための支援制度を政策に盛り込む考えを表明したように、リスキリングは企業運営において重点が置かれています。
今回の記事では、企業が従業員のリスキリングを実施するメリットや、その際に活用できる補助金について具体的にご紹介していきます。
リスキリングの利点
現在は、特にAIやクラウドといった先進技術が次々と進展するのにともなって、ビジネスモデルも目まぐるしく変化していく時代です。
5年前、10年前の知識や経験が、直接的に今後のビジネススキルに結びつかなくなってくる職種も多く、また事業自体を時代に合わせて変革させたり、新規事業を打ち立てたいと模索している企業も多いと思われます。
また、現在あるほとんどの仕事が、AIをはじめとする新技術に代替されるという見通しも数年前から頻繁に耳にします。
このような時代背景の中で、近年注目が高まっているのが、従業員のリスキリングです。リスキリングとは、すでに自社で雇用している社員に対して、こうした時代変化に対応できるような新しいスキルや知識の学びの機会を提供することです。
技術環境が変わり、多くの職種が不要になると同時に、新しいスキルが必要になってきますので、全ての企業、全ての働く人にとってリスキリングは無縁ではありません。
働く従業員のビジネススキルが増えていくことによって、事業レベルでの変革や新規策定の可能性が広がるのはもちろんのこと、部署単位での業務の効率化などに繋げていくことも可能になります。
一度仕事を離れて、さらなるスキルアップを教育機関で受けるリカレントや、既存の仕事のルーティーンから離脱することで、新たな打ち手を獲得していくアンラーニングなどとは、リスキリングが指し示している行動が異なることにも留意しましょう。
人件費を節約できる
生産労働人口の減少による人材不足の問題は、企業にとって喫緊の課題です。事務職の従業員は余剰があるとされている一方で、現在の目まぐるしい技術革新やビジネス分野の変化に対応できるデジタル人材などの専門職は、常に人手不足の状態にあります。
専門的なスキルを持つ人材の採用活動に大量の費用を投入するという選択は、企業にとって魅力的な戦略と見えるかもしれません。しかし、それは必ずしも容易な過程ではありません。自社のカルチャーに見事にフィットし、さらに新鮮な風をもたらすことが期待できる最適な人材だけを見つけ出し採用するというのは、現実には困難を伴うことも少なくありません。
リスキリングはすでに採用している内部人材に対して教育投資を実施していきますので、上記のプロセスでかかってくる採用コストなど人件費を節約したり、社風とのミスマッチを事前に防ぐことができます。
専門人材になるまで多少の時間はかかるかもしれませんが、少ない出費で人材不足に対応していける効果的な方法だと云えます。
長期的な視点に立った時に、人材の質を底上げしていくことは、事業成長にもつながります。
社員エンゲージメントが向上する
会社が資金を投資して、学習を促すことは社員のキャリア形成を支援するということです。つまり、結果として学びの機会を得た社員のエンゲージメントも向上するかもしれません。
漫然と同じ業務に従事したり、決められたKPI達成のみを目指すのではなく、半自律的に新しいことを学びながらさまざまな業務に対応していくことで、総合的な生産性向上にもつながります。
また、社員エンゲージメントの向上は離職率低下とも相関しています。優秀な人材をリスキリング支援によってグリップし続けることで、キープすることもできるのです。リスキリングの機会を提供することで、その社員の自社に対する熱意や忠誠心を育むことが見込まれるのです。
このような社員の心理的な変化や、質向上はすぐに事業成績に現れるものではないかもしれません。しかし、長期的な視点で見れば利益に寄与したり、企業カルチャーの前向きな変化にもつながったりと、プラスに働く側面が非常に多いと言えるでしょう。
リスキリングに活用できる補助金
さまざまなメリットがある一方で、効果が明確に出るかわからないリスキリングに、今投資する判断をするのは難しいと考える企業経営者の方も少なくはないでしょう。
実は、リスキリングを推奨するために、政府は近年さまざまな補助金を用意しています。
次に、リスキリングを企業が実施する際に、企業が活用できる補助金の種類について、詳しくご紹介していきます。
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業費補助金(経産省)
経産省が提供する大きな補助金に、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業費補助金」があります。
民間団体・企業などが、働く個人に対して実施するキャリア相談やリスキリングなどを支援することができる体制整備に必要な経費に対する補助金です。
令和4年度は、リスキリング経費の補助率は、講座等提供価格の1/2相当額が提供されたという実績があります。
リスキリングに必要な経費の半分を政府からサポートしてもらえると考えると、リスキリングを行う企業はぜひ利用を検討してみるべきです。
講座等提供価格以外にも、リスキリングにともなって必要となってくる事業費として、広告費やシステム構築・運営費なども補助対象になっています。
それぞれの項目に対する補助率などが異なりますので、ぜひ概要に目を通しておくと良いでしょう。
DXリスキリング助成金(東京都)
「DXリスキリング助成金」は、東京都が提供する助成金です。中小企業人材スキルアップ支援事業と呼ばれることもあり、こちらは中小企業と個人事業主が申請可能な助成金となっています。
民間教育機関が提供するDXに関する研修に必要な経費に対して東京都の助成が行われます。DX推進のためのマネジメント講座や、情報セキュリティ対策講座、Excel講座など基礎的な研修が幅広く対象となっており、今までこうしたDXにまつわるスキルに対して、社員の大部分が及び腰だったというような企業にとって、助成金の活用は有効といえるでしょう。
年度ごとの上限額に達するまで、申請受付期間内に複数回の申請が可能なので、繰り返し活用する可能性なども含めてぜひチェックしてみるのがおすすめです。なお、訓練時間は20時間以上が対象になる点については注意しましょう。
この助成金における申請可能な事業者は、業種区分と資本金額・出資額・常時従業員数によって定義・区分されています。申請を検討する初期の段階で、まず自社がこの対象業種などに則っているかどうかを、確認しておくのが良いでしょう。
人材開発支援助成金(厚生労働省)
人材開発支援助成金とは、従業員の職業能力の開発を目的として、職務内容に関連する専門知識や技術を習得させる研修などを計画・実施した企業に対して、経費や賃金の一部を助成する制度です。厚生労働省の管轄になります。
9つのコースに分かれており、リスキリング以外の目的にも活用できる助成金となっています。9つのコースのうち、リスキリングを実施する企業が活用するできるのは、「人への投資促進コース」と「事業展開等リスキリング支援コース」となります。
そのほかのコースは、建設労働者技能実習コースや障がい者職業能力開発コースなどが準備されています。この機会に、助成金の全体像をチェックしてみるのも良いでしょう。
また、こちらは申請するにあたって、訓練実施計画届や年間職業能力開発計画などを各都道府県の労働局に提出します。訓練実施後に支給申請書を提出し、審査が行われますので、こうした事前計画と研修の間違いない履行を徹底しましょう。
教育訓練給付制度(厚生労働省)
厚生労働省は、教育訓練給付制度も提供しています。教育訓練給付は、働く人の主体的なスキル向上やキャリアアップをサポートして雇用の安定や就職の促進を目的に、厚生労働省が指定する教育訓練の費用の一部が支給される制度です。
どのような講座が教育訓練の対象になっているのかどうかは、厚生労働省のサイトに検索システムが用意されていますので、アクセスして事前に確認しておきましょう。
またこの指定される講座郡は毎年更新されておりますので、申請のタイミングでその都度対象講座を確認しておくのがおすすめです。
こちらも人材開発支援助成金と同様に、事前に設定されたコース別に支援内容が異なります。専門実践教育訓練という中長期的なキャリア形成に資する教育訓練が、企業内でのリスキリングに活用できるコースと言えます。
そのほか再就職をはじめとする、包括的な就職支援につながるようなコース展開となっています。
一方で、教育訓練給付制度は、人材開発支援助成金と同様に厚生労働省の管轄ですが、支給手続き場所が違う点にも留意が必要です。教育訓練給付制度の受付は、お住まいの地域を管轄するハローワーク宛てとなっています。
まとめ
今回の記事では、現在注目が高まっているリスキリングに活用できる補助金をご紹介しました。補助金制度には多様な種類があり、自社の状況に応じた最適なプログラムを利用するのがポイントです。
さまざまなメリットがあるものの、支出を考えると積極的になりづらいかもしれませんが、政府の補助金を使えば、前向きに検討できるようになる企業も多いのではないでしょうか。長期的な経営視点に立って、従業員にリスキリングを実施してみるのも良いかもしれません。