世界最大級の経済成長と経済圏を誇る中国は、これまで強力な不動産市場の成長によって多くの人々に富の分配を実現し、中流階級の急速な拡大を促してきました。しかし、現在、同国では不動産バブルの崩壊が進行中であり、中国国内市場はもちろん、日本を含む世界経済にも徐々に影響を及ぼしているのが現状です。
この記事では、中国における不動産バブルの概要と崩壊のプロセス、そしてバブル崩壊によって中国経済がどのように変化していくかについて解説します。さらに、この崩壊が日本経済に与える影響と、それに対する日本企業の対策を深掘りします。
中国の不動産市場:好景気の背景とバブルの警鐘
中国は21世紀に入って以降、空前の好景気を経験してきた国です。その経済発展を支えたのは、同国の不動産市場で、90年代後半に実施された住宅制度改革に伴い不動産価格は右肩上がりの成長を続けました。しかし、2008年に発生したリーマンショックにより、価格が下落しました。
そこで中国政府は金融緩和政策と財政出動を実施し、他の国よりも早く景気回復に成功しました。不動産市場も政府主導のプロジェクトや大企業の大型開発によって活況を迎え、かつてない好景気を経験しました。
ただし、中国の不動産市場の活況は、消費者物価指数の下落、輸出の減少、民間投資の低迷などに囲まれ、中国経済の実情を反映していないことが明らかでした。
不動産価格は現実の相場を超えて膨張し、文字どおりバブル状態にあったため、多くの機関や経済学者がこの好景気の破綻の可能性について警鐘を鳴らしていました。
中国不動産バブルの崩壊:「三道紅線」政策の影響
このように、中国の不動産市場はいつ崩壊してもおかしくない危険な状態にありましたが、ついにバブルの崩壊へのきっかけとなったのが、中国政府による「三道紅線」と呼ばれる融資規制の実施です。
「三道紅線」とは、以下の3つの財務基準を指します:
- 総資産に対する負債比率が70%以下
- 自己資本に対する負債比率が100%以下
- 短期負債を上回る現金の保有
これらを満たしていない企業に対して銀行融資の規模が制限されます。
参考:中国恒大集団問題について | 三井住友DSアセットマネジメント
中国の不動産バブルは、融資による投資で不動産価格を押し上げ、業界に莫大な資金を投じるメカニズムによって支えられていました。「三道紅線」の導入は、このような基盤のない不動産業界への資金投入にブレーキをかける措置であり、バブルをけん引していた不動産業者は資金繰りに窮することとなりました。
特に大きな影響を受けたのは、中国最大級の不動産会社である中国恒大集団です。同社は上記の財務基準を満たすことができず、銀行融資の大幅な制限を受け、経営破綻の危機に瀕しています。
同社が抱える負債総額は33兆円を超えると言われ、2024年1月には香港の裁判所から清算命令が出され、経営破綻は秒読み段階と言われています。
参考:中国不動産大手の恒大に清算命令 香港の裁判所 – BBCニュース
恒大集団のような大企業の市場からの消失は、小さな町工場の廃業とは比較にならないほどの影響を中国経済に与えます。
恒大集団で働く多数の従業員が失業する可能性がありますし、同社の下請け企業や関連企業など、幅広い影響が懸念されます。恒大集団を中心とした経済ネットワークの停止は、中国だけでなく世界経済にも大きな影響を与えることでしょう。
中国不動産バブル崩壊の経済への影響とその余波
このような不動産バブルの崩壊は、中国経済にどのような影響を与えるのでしょうか。不動産開発企業が債務再編を求められる中、直接的な影響を受けるのは同国の銀行です。
不動産企業への多大な融資を行ってきた銀行は、不動産バブルの終焉によって不良債権の発生が避けられない状況にあります。この不良債権の発生を最小限に抑えるためには、融資を絞る必要があります。
「三道紅線」の制定により、不動産開発会社への融資が既に大幅に制限されていますが、今後他の業界でも不景気が発生する可能性に備え、銀行からの融資がさらに制限されることになります。
既に、恒大集団を始めとする大手不動産開発会社の取引先は、受注先からの未収金の回収に苦労しており、倒産へと追い込まれるケースが加速しています。その大半は中小企業で、資本力の乏しい組織が淘汰され、中国の経済状況に悪影響を与えると懸念されています。
参考:RIETI – 中国における住宅バブルの崩壊-景気回復の重荷に-
また、中国では住宅価格の下落が始まり、高額で住宅を購入した消費者、特にローンで購入した消費者は、「負の遺産」を抱えることになりました。
結果として、中国の消費意欲は急速に減少し、未完成の住宅への不安が消費者の間で高まり、実際の数字以上の不況感が漂う可能性があります。
2020年に制定された「三道紅線」の影響は2023年になっても収まっておらず、不況からの脱却の兆しは見えません。GDP統計では2年連続でマイナスを記録し、新規着工数もピーク時の半分程度に落ち着いており、回復には時間がかかる見込みです。
参考:中国の不動産バブル-日本のバブル崩壊の経験だけで類推するのは危険 | ニッセイ基礎研究所
また、中国経済では不動産業界がGDPの約3割を占めるなど、他国と比べて大きな割合を占めています。この比率は、バブル景気時の日本を超えるもので、中国の不動産景気の衰退が大きな話題になっている理由です。
中国の不動産の空室率は、主要国の中でイタリアやスペインに次いで高いとされています。世界最大の人口を持つにも関わらずこのような空室率が存在することは、不良債権の清算が完了するまで不況感が続くことを意味します。
参考:「中国版・失われた30年」が始まる理由と向き合い方 – 日本経済新聞
中国不動産バブル崩壊の日本経済への影響
中国の不動産バブルの崩壊が、国内にとどまらず、日本においても波及することが懸念されます。日本企業では、中国向けの工作機械の発注が減少傾向にあるほか、ラグジュアリーブランドの購入需要も減退しています。この点で、日本のバブル崩壊時と似たトレンドが見られます。
また、ここ数年で中国の富裕層による日本の不動産購入が活発でしたが、このトレンドは今後抑制され、日本の不動産価格の安定や下落を招く可能性があります。
特に東京の不動産は、近年例を見ない価格上昇を記録していますが、中国の不動産バブル崩壊がこれに歯止めをかける可能性があります。
さらに、中国からのインバウンド客減少も今後の懸念事項です。隣国であることから、多くの中国人観光客が日本を訪れていましたが、その数が今後減少する可能性があります。
ただし、日本は現在、世界的な国際都市であり、中国だけでなく韓国、台湾、東南アジア諸国、欧米など、世界中から多くのインバウンド観光客が訪れています。約10年前の中国人観光客による「爆買いブーム」が日本経済に大きな影響を与えましたが、今はグローバルな受け入れ体制が整い、多様なニーズに応える国に成長しています。
重要なのは、中国経済に依存しないビジネスモデルの構築です。
中国の不動産活性化と経済回復展望
中国も現在の不景気を深刻に受け止めており、政府は不動産市場の活性化に向けた措置を進めています。
2022年に不況の一因となった「三道紅線」は事実上の撤廃が進み、住宅ローンに関する規制緩和も行われています。
家庭が購入できる住宅数の規制撤廃など、需要創出を目指した規則の改革も進行中で、景気が好転すれば市場は迅速に回復する可能性があります。
しかし、住宅市場は依然として低迷しており、住宅販売価格は相場を上回る高水準にあります。価格が安定するまで、住宅購入の活性化は難しい状況です。
中国経済の完全な回復には、まだ時間がかかると見られます。
中国不動産バブル崩壊の影響と日本経済への波及
中国の不動産バブル崩壊は、中国経済に大きな影響を及ぼしただけでなく、日本の景気にも無視できない影響を与えています。現在、中国政府は不動産市場の活性化を目指した緩和政策を発表していますが、需要の冷え込みは依然として続いており、回復には時間がかかると予想されます。
このため、日本においても中国からの需要減少が様々な業界に影響を及ぼすことが懸念されており、対策の検討が必要とされています。