企業の安定した成長を支えるためには、長期にわたって組織に従事してくれる社員の存在が欠かせません。近年は従業員の定着率に悩まされる企業も多く、継続して働ける人材を確保し、組織活動に安定感をもたらす必要が出てきています。
今回は、そんな従業員の定着率改善に役立つという福利厚生の充実に注目し、福利厚生の充実に役立つ助成金について、ご紹介します。
従業員の定着率が重視される背景
一昔前までは、従業員の定着率が今ほど深刻視されることはありませんでした。近年になって大いに注目されるようになった背景として、以下の2つが挙げられます。
人材不足の深刻化
1つ目は、人材不足の深刻化です。少子高齢化が進んだことで、日本は多くの企業において新しい人材を確保することが困難になっており、優秀な人材の争奪戦が続いています。また、熟練の技術を持った人材の高齢化により、スキルを引き継げる人間が確保できない、あるいは十分な技術継承がされないまま現場を離れてしまうケースも増えています。
そのため、フレッシュな人材が得られず、優れた技術も現場から失われてしまうことから、企業の成長力に停滞が生まれつつあるのが現状です。
こういった事態を少しでも回避するため、優秀人材にとって魅力的な職場づくりが求められます。
人材の流動性の高まり
2つ目は、人材の流動性が以前にも増して、高まっていることが背景にあげられます。従来の日本社会では終身雇用が当たり前とされており、定年まで一つの会社で勤め上げることが、一般的と考えられてきました。
しかしバブルの崩壊以降、グローバル化の影響などもあり、中途退職や転職が当たり前になった今日では、終身雇用制度を維持することも難しくなってきました。人材の流動性が高まり国内外を問わず、優秀な人物は、より良い待遇を求めて新しい職場を目指す傾向が強まっています。
こういった状況にシフトしたとはいえ、長く勤務する人がいる職場の方が、再教育の必要がなく、高騰する人材獲得コストを回避でき、生産性が圧倒的に高いと云われています。流動性の高い社会でも、従業員が主体的に自社を選び、長く勤めたいと思う職場づくりに力を入れる必要があります。
従業員の定着率改善に福利厚生が役に立つ理由
従業員の定着率改善に役立つ一つに、福利厚生の充実があります。理由には、以下の3つが挙げられます。
安心して働けるため
まず、福利厚生の充実は、社員にとって安心して働ける職場づくりにつながります。非正規雇用から正規雇用へのキャリアアップ、育休取得や有休消化制度の汎用性、交通費や住居費支援など、給与以外のサービス充実は、従業員に「ここなら落ち着いて働ける」と感じてもらい、定着率の改善に役立ちます。
退職以外の選択肢を選べるようになるため
福利厚生が充実していないと、止むを得ない事情に直面した際、従業員が退職以外の選択肢を選べない可能性があります。育休や産休は代表的な例で、これらの制度が形骸化していると、子育てや出産に伴う私生活の負担増加のため、止むを得ず退職を選ばざるを得なくなることもあります。
ただ制度を用意するだけでなく、確実に福利厚生サービスが機能する環境を実現することが、定着率改善のポイントです。
多様な人材活用に役立ち、人材不足解消につながるため
福利厚生の充実によって、人材活用の可能性を広げることができれば、多様な人材を発掘し、人材不足の解消に役立ちます。
短時間しか働けない主婦層の再就職を促したり、技術訓練の充実を図り、資格などを取得させることで、優れたスキルを持った人材へ育成したりなど、人材起用の裾野を広げられます。
福利厚生に役立つ助成金について
このような福利厚生の充実には、厚生労働省の交付している各種助成金が役に立ちます。どのような支援を受けられるのか、確認しておきましょう。
具体的な支援内容
助成金にもさまざまな種類がありますが、福利厚生に強い助成金の多くは、導入したい福利厚生に応じて、設定された助成金の受け取りが可能です。キャリア支援や制度拡充など、企業のニーズに合わせた制度の充実が行えるよう支援策が設けられているため、運用可能性の高いサービスと言えます。
助成金活用のポイント
基本的に、助成金は返済の必要がないため、後の返済負担を気にすることなく、制度拡充に充てることができます。ただし、受給の際には、各種要件を満たさなければならないため、制度を利用する場合は一つずつ、要件をクリアできるような環境整備や施策の実行を促しながら利用しましょう。
人材確保等支援助成金の概要
ここからは、具体的な福利厚生に強い助成金制度について、一つずつ見ていきましょう。まずは、人材確保等支援助成金です。
人材確保等支援助成金は、企業の必要に応じた各種福利厚生制度の充実を促すために利用できる制度です。
目的に応じてコースが分かれており、研修制度や健康づくり制度などの充実には、雇用管理制度助成コース、介護労働者向けの福祉機器導入には、介護福祉機器助成コース、人事評価制度と賃金制度の改善には、人事評価改善等助成コースが用意されています。
企業の課題に応じてコースが区分されているため、それぞれで認定要件は異なります。たとえば雇用管理制度助成コースの場合、
- 雇用管理制度整備計画の認定
- 雇用管理制度の導入・実施
- 離職率の低下目標の達成
の3点を実現する必要があり、ただ計画を策定するだけでは、助成されない点に注意が必要です。
支援内容について
人材確保等支援助成金は、コースに応じて助成金額が大きく異なります。例えば、先ほど紹介した雇用管理制度助成コースの場合、基本助成額は57万円となっていますが、生産性要件を達成した場合、助成金額は72万円となります。
あるいは、介護福祉機器助成コースを見てみましょう。こちらのコースは、助成対象となるのが、介護福祉機器の導入や保守契約、機器運用のための研修にかかった費用で、目標を達成した際に、これらの費用合計の20%が助成されることとなっています。こちらでも生産性要件を満たした場合、助成額が35%へと増額されますが、上限は150万円となっている点に注意が必要です。
人材確保等支援助成金についての最新情報は、厚労省の公式サイトから確認可能です。
公式サイト:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
キャリアアップ助成金の概要
キャリアアップ助成金は、その会社に勤める従業員のキャリア支援をサポートするための助成金です。
パートタイマーや非正規雇用者の正規雇用を促すための活用が想定されており、彼らの正社員化を促す正社員コース、障害のある雇用者を正規雇用者へと転身させる障害者正社員化コース、有期雇用労働者の賃金を改定した際にその費用を助成する賃金規定等改定コースなどが用意されています。
支援内容について
キャリアアップ助成金は、コースによって支援額が異なるだけでなく、どんな人材のキャリアアップを促したかによって、その額は異なってきます。
たとえば正社員化コースにおいては、有期雇用から正規雇用へと社員を繰り上げた場合、中小企業は一人当たり57万円、生産性要件を満たした場合には72万円が支給されます。大企業の場合はこれが一人当たり42万7,500円、生産性要件を満たした際は54万円となるなど、会社の規模に応じた支援額が設けられています。
逆を言えば、会社の規模を問わず利用できる助成金制度であるため、積極的に活用すべき制度となります。最新の制度情報については、以下の公式サイトよりご確認ください。
公式サイト:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
両立支援等助成金の概要
両立支援等助成金は、育児休暇や介護休暇の取得を促進する上で役立つ助成金です。家庭の事情で止むを得ず離職してしまうケースを最小限に抑え、従業員の定着率を高めます。
支援内容について
両立支援等助成金には、主に3つのコースが用意されています。男性の育児休暇取得を支援する出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)、仕事と介護の両立を支援する介護離職防止支援コース、仕事と育児の両立を支援する育児休業等支援コースです。
出生時両立支援コースは、男性社員が育児を理由に休暇を取得した際、雇用主に支給される助成金が含まれており、一人目の育休取得に57万円、生産性要件を満たした場合に72万円が支給されます。
中小企業ではない場合にも、一人目の育休取得に28.5万円が支払われるため、男性の家庭参画を支援する制度として優れています。
介護離職防止支援コースでは、介護を目的とした休職の際に28.5万円(生産性要件を満たすと36万円)、職場復帰の際に28.5万円(36万円)が支払われる制度です。高齢化社会の到来に伴い、介護離職の防止にも注目が集まりますが、こちらの制度で補填が可能です。
育児休業等支援コースの場合も、育児を目的とした休職の際に28.5万円、職場復帰の際に28.5万円が支払われ、どちらも生産性要件を満たしていれば36万円に増額されます。
連続3ヶ月月以上の育児休業取得が条件となっているなど、制度の形骸化を防ぐ役割も果たします。
最新の助成金情報については、公式サイトから確認できます。
公式サイト:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
福利厚生に役立つ助成金の活用事例
最後に、福利厚生に役立つ助成金を活用している事例についても見ていきましょう。
日本綿布株式会社
製造業を営む日本綿布では、人材確保等支援助成を活用し、人材評価制度を改善したことで、確かな改善効果を生み出しています。
客観的な評価軸を有していなかったために、社員の労働モチベーションを高めることが困難な状況にあった同社ですが、部門に応じた人事評価の策定を実現し、社員に対して具体的な改善目標を提示したことで、技術向上のきっかけづくりとモチベーションアップを実現しました。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000594229.pdf
日新運輸工業株式会社
運搬・製造業を営む日新運輸工業では、キャリアアップ助成金を活用して非正規雇用者の積極的な正規雇用転身を促し、確かな福利厚生の充実を実現しています。
入社時、安全教育から技能向上促進に向けた、多面的な教育訓練支援を提供することで、正社員転換というプロモーションを活気づけただけでなく、助成金をフル活用した、成果につながる質の高い教育を提供できています。
参考:https://tayou-jinkatsu.mhlw.go.jp/cases/case_04/
まとめ
福利厚生の充実が重視される中、厚労省は福利厚生サービスの充実に向けた、多様な助成金制度を用意しています。
非正規雇用者の正規雇用転身、介護・育児休暇制度の導入や形骸化の回避など、多くの課題解消につながる助成金制度が揃っているため、積極的に活用しましょう。