地熱発電は、単なる「再生可能エネルギー」の一つにとどまりません。地下に眠る熱を地域の力に変え、観光・産業・暮らしをつなぐ“共生型エネルギー”として注目を集めています。日本は世界有数の地熱資源国でありながら、その潜在力をまだ十分に活かしきれていません。
しかし今、温泉地や地方自治体が主導する取り組みが各地で成果を上げ、エネルギーと地域振興を両立させる新たなモデルが生まれつつあります。本記事では、地熱発電がどのように地方を再生し、持続可能な未来を築いているのかを、全国の成功事例から探ります。
地熱発電とは?――安定した再生可能エネルギーの仕組み

地熱発電とは、地中深部に存在する高温の蒸気や熱水を利用してタービンを回し、電力を生み出す発電方式です。日本列島は世界有数の火山帯に位置しており、地下には豊富な地熱資源が眠っています。そのポテンシャルを活かせば、安定的な再生可能エネルギー源としての活用が期待されます。
地熱発電の特徴は、天候や昼夜の影響を受けにくく、安定した電力供給が可能な点にあります。これは、太陽光発電や風力発電が抱える出力変動リスクを補完できる点で大きな強みです。
一方で、開発には課題も少なくありません。調査や掘削には多大なコストと時間がかかり、また温泉地や自然公園との調整が必要になる場合もあります。さらに、地形や地質条件によっては開発が制限されることもあります。こうした制約の克服には、地域の理解と技術革新の両面が欠かせません。
なお、地熱関連技術には「地中熱ヒートポンプ(GHP)」という分野も存在します。これは地中10〜100m程度の浅い地盤の温度を利用し、冷暖房や給湯などに活用する技術です。発電用途の高温地熱とは異なるものの、地域のエネルギー効率化や脱炭素化に寄与する点では共通しています。
日本における地熱発電の現状と課題

日本は世界第3位の地熱資源量を誇りますが、発電設備容量は世界第10位前後にとどまっています。このギャップの背景には、技術的・社会的・制度的なハードルが存在します。
国内の主要な地熱発電所は、東北、北海道、九州、鹿児島などの火山地帯に集中しています。これらの地域は温泉地としても知られており、地熱資源の活用には観光業との共存が欠かせません。温泉の湯量や湯質への影響を懸念する声も根強く、地域住民や事業者の理解を得るプロセスが重要になります。
政府は地熱開発を促進するため、超臨界地熱・クローズドループ方式などの次世代技術支援を進めています。これにより、掘削コストの削減や環境影響の低減が期待されています。
現時点で、地熱発電が日本の総発電量に占める割合は1%未満にとどまりますが、2030年には現在の3倍以上に拡大する政府目標が掲げられています。これを実現するためには、技術だけでなく「地域と共に進める開発モデル」が不可欠です。
地熱発電を活用した地方活性化の成功事例

地熱発電は、単なるエネルギー源にとどまらず、地域経済や観光の活性化に直結する可能性を秘めています。以下に代表的な成功事例を紹介します。
1.新潟県十日町市・松之山温泉――温泉熱から電力へ、地域主導の挑戦
新潟県十日町市の松之山温泉では、温泉熱エネルギーを活用した地熱発電事業が進められています。日本三大薬湯の一つとして知られる松之山温泉は、地層の中に閉じ込められた海水が高圧で湧き出す「ジオプレッシャー型温泉」としても有名です。こうした特殊な自然条件を生かし、温泉から生まれる熱エネルギーを電力に変える取り組みが始まっています。
■ 地球温暖化対策から始まった研究
このプロジェクトは、2010年度に新潟県が「地球温暖化対策技術開発等事業」としてスタートしました。弘前大学と産業技術総合研究所(AIST)と共同で、温泉熱を利用した発電システムの開発と実証実験を行いました。
一般的に温泉は約70〜120℃と高温であり、入浴や利用の際には冷却が必要になります。その際に発生する温度差エネルギーを活用すれば、発電が可能になることが注目されました。
■ 低温の温泉熱でも発電できるバイナリー方式の先行事例の一つ
松之山温泉では、100℃以下の温泉熱を利用したバイナリー発電システムの実証実験が行われました。バイナリー発電とは、温泉の熱を媒体に低沸点の液体を蒸発させてタービンを回す仕組みで、比較的低温の熱源でも発電できるのが特徴です。
■ 地域会社「地・EARTH」による売電
事業主体は、特別目的会社として設立された松之山温泉合同会社 地EARTH(ジアス)。十日町市・松之山温泉の源泉(鷹の湯3号泉など)を活用した地熱バイナリー発電所「コミュニティ発電 ザ・松之山温泉」は出力210kW、年間発電量約124万kWh(一般家庭約280世帯分)の規模で、2021年1月15日からFIT制度で東北電力へ売電を開始。その後はみんな電力を通じて、十日町市と協定を結ぶ世田谷区(例:世田谷中学校等)や一般家庭へも電力供給が行われています。地域資源を生かした再生可能エネルギー事業として継続的に運転・供給が進められています。
■ 温泉と再エネの共生がもたらす地域の未来
松之山温泉の地熱発電事業は、温泉観光と再生可能エネルギーの共生を目指す新しい取り組みです。地域に眠る自然エネルギーを最大限に活用し、地産地消型の電力供給を実現することで、地域経済の活性化や脱炭素化の推進にもつながります。
温泉地が持つ「癒しの力」と「発電の力」が融合することで、地方から持続可能な未来を切り開くモデルケースとなることが期待されています。
2.鹿児島県霧島市――国立公園内で自然と共生する発電所
鹿児島県内には大霧発電所や山川発電所、そして霧島国際ホテルの地熱バイナリー発電施設など、複数の地熱発電拠点があります。特に霧島市は九州を代表する温泉地の一つであり、市の南東部には約130の温泉地が広がる霧島温泉郷があります。こうした豊かな自然と温泉資源を背景に、地熱エネルギーの利活用が進められています。
■ 大霧発電所 ― 自然と共生するジオサイト発電所
霧島連山のふもとにある大霧発電所は、活発な火山活動を背景にした地熱発電所です。1975年から地熱開発精密調査が始まり、1980年代には活発な地熱流体と安定した蒸気量が確認されました。その結果、長期にわたる安定した発電が見込まれるとして、1996年に運転が開始されました。
大霧発電所は、霧島錦江湾国立公園のジオパーク内に設置されており、発電所自体も「ジオサイト」に登録されています。自然環境と調和しながら運営されており、まさに「自然と共にある発電所」として全国的にもユニークな存在です。
■ 温泉地との共存を模索する霧島市の取り組み
霧島市では、豊富な地熱資源を活かして第二の地熱発電所建設を計画しましたが、井戸の掘削地点が温泉街に近かったことから、観光への影響を懸念する声が上がりました。そのため、計画は進められていません。
市では温泉資源の保護と適正利用を目的に、2015年に「霧島市温泉を利用した発電事業に関する条例」を、2016年(平成28年)(その後改正あり)には「霧島市再生可能エネルギー発電設備の設置に関するガイドライン」を策定しました。これにより、無理な開発を抑制しつつ、地域の温泉と観光の共存を図る方針が明確に示されています。
■ 霧島市(鹿児島県)における地熱発電の最新状況
霧島市では、既に30 MW級の大規模な地熱発電所(大霧発電所)が稼働中であり、今後さらに 4–15 MW級の新規プロジェクトが計画されています。特にバイナリー方式の新設や白水越地区の調査など、再生可能エネルギー・地熱活用の動きが活発化しています。ただ、運転開始時期や規模に関しては、実行計画が流動的な点があり、地域資源(特に温泉)との共存を図るための制度整備・地域合意形成が鍵となっています。
■ クリーンエネルギーと観光の共生へ
地熱地帯には今も豊富な資源が眠っており、他の自治体では観光と地熱発電の両立に成功している事例もあります。そのため、霧島市でも「クリーンエネルギーが新たな観光の呼び水になる」として、地熱発電と観光の共生を目指す動きが広がっています。
霧島の地熱発電事業は、地域の環境保全とエネルギー自立、そして観光振興を同時に実現する可能性を秘めています。自然の恵みを持続可能な形で活かし、次世代に誇れる「温泉と再エネの共存モデル」を築こうとしています。
3.福島県土湯温泉――震災復興から始まった地域共生型モデル
福島県福島市の土湯温泉では、地熱エネルギーを活用した地域共生型バイナリー発電が行われています。2011年の東日本大震災で観光客が激減する中、地域住民・温泉協同組合・行政・企業が一体となり、復興と地域の再生を目指したこのプロジェクトは、全国の温泉地・再エネ政策にとっても注目の成功事例となっています。
■ プロジェクトの始まりと体制
震災後、温泉街の復興を目的に「土湯温泉町復興再生協議会」が発足しました。
2011年度には導入可能性調査が行われ、地熱資源のポテンシャルを確認。その成果をもとに、2012年に地域主体の事業会社「株式会社元気アップつちゆ」を設立しました。
出資構成は、資本金2,000万円のうち9割を温泉協同組合が出資し、残りを町づくりを担うNPO法人が出資しています。地域の理解と信頼のもと、反対意見はほとんどなく、温泉への影響を懸念する声にも丁寧な説明で対応しました。
■ 発電設備と事業の仕組み
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発電出力:350kW
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総事業費:6.3億円
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供用開始:2015年11月20日
また、発電後の冷却水や温泉水は、オニテナガエビの養殖や展望デッキの融雪、温泉施設への配湯に活用されています。
■ 地域への還元と副次効果
売電収益は単なる利益ではなく、地域支援や観光振興に再投資されています。
- 高齢者や学生への定期券寄贈
- 公衆浴場の無料入浴券配布(「湯らり健康リフレッシュ事業」)
- 小学校保護者への給食費・教材費支援(廃校まで継続)
- 空き家を改修し、エビ釣り体験カフェやどぶろく工房として再活用
- 高校生・若者の雇用機会創出
これらの活動が観光客増加にもつながり、「エビ釣り」や「温泉熱で発酵した食品」など、地域ブランドの新たな魅力を生み出しています。
■ 成功のポイント ― 地域共創と合意形成
プロジェクトの特徴は、住民主体+官民連携のハイブリッド体制です。地元金融機関、JFEエンジニアリング、JOGMEC(債務保証)などと協働し、資金・技術・運営の三位一体モデルを確立しました。
また、16社との連携協定を通じて、地熱を活かした観光商品や発酵食品の共同開発も進めています。コミュニティ内では50人規模の関係者協議を重ね、小さな単位から合意を積み上げる方法で、住民全体の納得感を確保しています。
■ ゼロカーボンパークへ、未来への展開
2023年、土湯温泉は高湯温泉とともに「東北初のゼロカーボンパーク」として登録されました。
地元では再生可能エネルギーを活用した地域内循環の仕組みづくりが進められており、今後はFIT(固定価格買取制度)の終了を見据え、地産地消型の電力供給や自家消費モデルの検討も行われています。
また、福島市の「次世代エネルギーパーク」構想の一環として、環境教育や体験学習の拠点としての役割も期待されています。
地熱発電と地方共生のカギ――成功事例に共通する3つのポイント

地熱発電による地方活性化を実現した地域には、共通する成功の要因があります。それは単にエネルギーを生み出す技術の問題ではなく、「地域社会の協働力」や「資源活用の多様性」、そして「持続可能な経済循環の設計」に深く関わっています。
以下では、各地の成功事例から見えてきた3つの共通ポイントを整理します。
① 住民主体の合意形成と透明な情報共有
地熱発電は、地下資源という見えにくいエネルギーを扱うため、地域住民の理解と信頼が欠かせません。
熊本県小国町の「わいた温泉郷」では、住民30戸全員が出資者となり、合同会社を設立して発電事業を運営しました。外部企業任せではなく「自分たちの資源を自分たちで活かす」という姿勢が、地域全体の納得感を高めました。
また、福島県土湯温泉では、温泉協同組合が主導して事業計画を公開し、発電による影響や収益の使途を丁寧に説明。これにより反対意見がほとんど出ず、地域合意の形成が円滑に進みました。
共通しているのは、「開かれた情報共有」と「住民が意思決定に関わるプロセス」です。合意形成が信頼を生み、その信頼が事業の持続性を支える――これが第一の鍵です。
② 地域資源の多面的活用(温泉・観光・農業)
地熱発電は、単なる発電事業にとどまらず、地域の既存資源と結びつくことで大きな相乗効果を発揮します。
例えば、新潟県十日町市の松之山温泉では、温泉熱を利用した発電と観光を組み合わせ、「温泉と再エネの共生」という新しい地域ブランドを確立しました。
また、土湯温泉では発電後の温水をエビの養殖や融雪、発酵食品づくりに活用。これにより、観光・食・教育が連携する地域循環型モデルが生まれています。
さらに小国町では、地熱蒸気を使った農産物加工やカフェ運営など、二次的な事業展開を通じて雇用を創出。エネルギーを軸にした「複合的なまちづくり」が進められています。
地熱を「エネルギー+観光+産業+文化」として多面的に活用する視点が、地域価値を最大化する第二の鍵です。
③ 持続可能な収益循環モデルの確立
成功事例に共通するもう一つの特徴は、発電によって得られた利益を地域に再投資する「循環型経済モデル」の存在です。
小国町のわいた会では、売電収益を地域整備や新産業育成に還元し、外部依存に頼らない自立的な経済基盤を築きました。
土湯温泉では、収益の一部を福祉・教育・観光支援に回し、地域住民の生活に直接的なメリットをもたらしています。
このように「稼ぐ仕組み」と「還元の仕組み」を両立させることが、地方が持続的に発展していく上での重要な条件です。
また、FIT制度終了後を見据え、自家消費や地域電力小売へと転換する計画を進める地域も増えており、地熱発電は次の段階――“地域エネルギー産業”へと進化しつつあります。
地熱発電の未来展望――地中熱との融合で広がる地域エネルギー

今後の地熱エネルギーは、発電技術の進化と地中熱利用の広がりという二つの軸で発展が見込まれます。
まず、発電分野では超臨界地熱やクローズドループ方式などの新技術により、これまで未活用だった地熱資源の掘削・発電が可能になると期待されています。政府の支援も強化されており、地域と共生できる制度設計(温泉地との調整、環境配慮型の立地規制緩和など)が進められています。
一方、地中熱ヒートポンプは、地方公共施設や学校、病院、道の駅などで導入が進んでおり、冷暖房の省エネルギー化やヒートアイランド現象の抑制にも効果が期待されています。
環境省の調査によると、2023年度末時点で全国の地中熱利用システムの累計設置件数は9,188件に達しており、着実に導入が拡大しています。
地熱発電が「電力供給の基盤」を担い、地中熱ヒートポンプが「地域の熱利用インフラ」として定着すれば、電力と熱のハイブリッド・エネルギー地域モデルが形成されます。これにより、地域内でのエネルギー自給率向上・雇用創出・観光促進が同時に実現できるでしょう。
将来に向けては、
- 探査・掘削コストの低減
- 住民・観光事業者との共生モデル確立
- 小規模・地域密着型事業への支援強化
- 「地熱+地中熱」の複合エネルギー構想の推進
が鍵となります。2030年以降、こうした取り組みが地域経済の再生や脱炭素社会の実現にどこまで寄与できるかが注目されます。
まとめ:地熱エネルギーが導く「共生型地方創生」の時代へ

地熱発電は、単なる再生可能エネルギーではなく、地域の持続可能な成長を支える“社会インフラ”へと進化しつつあります。温泉地や観光資源との共生、地域主導の経営、住民の理解と参画——それらを統合的にデザインすることで、「エネルギーを稼ぐまちづくり」が現実のものとなるでしょう。
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