現在の日本では、社会情勢の目まぐるしい変化により、物価高騰などが私たちの生活に大きな影響を及ぼしています。また、少子高齢化により、労働者人口は減少の一途をたどっています。
建設業にとっても、決して良い状況とはいえません。建設業の倒産は増えるいっぽうです。建設業を営むうえで倒産は回避しなければならない事象であり、倒産しないための経営戦略が重要です。
本記事では、建設業が倒産する要因や倒産しないために講ずべき戦略について詳しく解説します。
建設業界の現状について
現在の建設業は、非常に厳しい局面に立たされていると言えます。
定数的に判断できる材料としては、2022年度における建設業界の倒産件数は1,000件を超えており、直近の過年度と比較すると大幅に増加している傾向にあります。
また、1月単位でも2023年3月では150件を超える倒産数が確認されており、こちらについても直近の過年度と比較すると大幅に増加している傾向にあります。
建設業界において倒産件数が増加しているのは、新型コロナウイルスの影響が非常に大きいとされています。日本政府としても、コロナ禍がもたらす被害は甚大であるとし、コロナ融資などを展開し、建設業を資金面で支援する各種政策を打ち出していました。
それらの対策は有益ではありましたが、抜本的な解決にはつながらなかったため、現在の厳しい状況があります。
建設業が倒産する理由とは
日本の人口は、現在ではピークを過ぎており、減少しています。日本の人口が減少するということは、社会経済を維持するうえで必要不可欠である労働者人口も減少するということです。
また、コロナ禍以外にも、ウクライナ情勢・急激な円安・原燃料価格の上昇などに伴い資材などが安定して供給されていない現状があります。建設業界では現在、人材不足、資材高騰、工期の延長が影響して、倒産に至っているケースが少なくありません。
ここからは、建設業が倒産する理由について詳しく解説します。
人材不足
建設業界の大きな特徴は、55歳以上の高年層が高い割合を示してることです。一方、29歳以下の若年層は低い割合を示しています。そして、高年層が退職していくに伴い、建設業界の労働者はより一層人材不足に陥っていきます。
また、中間層の人数が足りず、適切な技術継承がされていかなかったことも、問題として浮き彫りになりました。
公共工事などでは、建設業法において主任技術者や監理技術者の専任が義務付けられている案件も多くあります。適切な技術継承ができなかったことで、技術者がいなくなり、事業運営が困難になり倒産に至るケースも珍しくありません。
資材高騰
ウクライナ情勢・急激な円安・原燃料価格の上昇などの大きな影響を受けて、資材が高騰しています。建設業では鉄材・木材・コンクリート・アスファルトなど、さまざまな建設資材を活用していますが、価格高騰は建設業を営むうえで非常に大きな影響を与えているといえます。
資材の価格が高騰するということは、工事完成後に発注者からお金が支払われるまでの間、自社で負担する資金が大きくなるということです。
また、資材高騰を考慮した発注形態になっていなければ、高騰した分の資金は自社の持ち出しとなってしまうことから利益率が低下してしまいます。
このように、資材高騰で自社の資金繰りが厳しくなり、会社が倒産に至るケースも珍しくありません。
工期の延長
コロナ禍で、各種協議や本体工事の遅延などの遅れなどが目立っています。
各協議先の担当者がコロナに罹患していた場合、自宅待機期間は事業を前に進めることができません。また、現場においても職人がコロナに罹患した場合は人材の補てんが効かないケースもあり、結果的に工期に遅れが生じ、本体工事の全体工程が遅れてしまいます。
工期が延長されるということは、一般管理費や現場管理費などの各種諸経費が必要以上に嵩むこととなりますので、経営に大きな影響を及ぼすことになります。
また、工期が延長されてしまうと、主任技術者や監理技術者が専任であった場合では、技術者を該当現場に固定せざるを得ないため、本来であれば別の工事を受注できていた機会を逃すケースもあるのです。
このように、想定外の工期延長は自社において非常に大きな影響を与えているため、これらを理由に会社が倒産に至るケースも珍しくないのです。
倒産しないために講ずべき戦略
倒産する理由を明確に理解していれば、倒産しないために講ずべき戦略も具体化することができます。ここからは、倒産しないために講ずべき戦略について詳しく解説します。
優秀な人材の確保
人材不足が顕著であることから、限られた人材の中からどれだけ優秀な人材を確保できるかが重要となってきます。
特に建設業では汚い・きつい・危険といった、いわゆる3Kのイメージが払しょくできていないため、若年層からは敬遠されがちな業界であると言っても過言ではありません。
そのため、少しでもクリーンな労働環境を構築できていることをアピールすることが大切です。
最近では、国土交通省が建設現場における週休2日制の導入を強く推進している背景もありますので、休日を確保していることを前面に押し出すのも良いでしょう。
また、日本政府では女性管理職の割合を30%以上とすることを目標値として掲げていることから、女性技術者が活躍できる場も検討しなければなりません。
そのためには、産休や育休の制度を充実させ、育児をしながらでも働きやすい労働環境を構築することが重要なのです。
これらの事象を経営戦略に盛り込むことで、優秀な人材確保に繋がると言えるでしょう。
優良案件の見極め
ウクライナ情勢・急激な円安・原燃料価格の上昇などの大きな影響を受けて、資材が高騰しています。資材の高騰は徐々に顕在化することもありますが、急激な物価変動により顕在化するケースもあります。
国や地方自治体が発注している案件では、そのような急激な物価変動に対応できるように、契約約款で単品スライド条項を適用しているところがあります。
単品スライドとは、「特別な要因により工期内に主要な工事材料の日本国内における価格に著しい変動を生じ、請負代金額が不適当となったとき」に、請負代金額の変更を請求できる措置です。
地域の実情や工事の内容によっては、工事材料費の高騰等に起因して工事請負代金額が不適当となるおそれがあると考えられるため、実勢価格が変動している主要な工事材料の全品目について単品スライド条項の対象としています。
そのため、単品スライドが適用される工事では、資材高騰に伴う資金面の負担を自社で被る必要はなくなります。
また、不安定な社会情勢を背景に、建設資材が現場に期日通り納品されないなどの理由で工期延期を余儀なくされるケースがあります。
しかし、工期に余裕がある案件では、それらの不測の事態があったとしても工期延期をしなくて良い場合もあるのです。
官公庁が発注する工事では「会計単年度の原則」があり、基本的には議会において議決された予算は当該年度に執行しなければなりません。しかし、地方財政法では会計のルールとして債務負担行為が認められています。
債務負担行為とは、1つの事業や事務が単年度で終了せずに後の年度においても「負担=支出」をしなければならない場合には、あらかじめ後の年度の債務を約束することを予算で決めておくことができるのです。
会計上において債務負担行為を活用して発注している工事では、工期に余裕がある案件である可能性もあります。
受注する案件が、物価変動や工期延長に対応しているものであれば、被害を最小限に抑えられます。このように、受注する案件が優良案件であるかどうかを見極めることは、倒産しないためにも重要になります。
資金繰り
建設業において、事業運営するうえで資金繰りは極めて重要なポイントです。資金繰りが悪化することは、会社の倒産に直結していると言っても過言ではないでしょう。
資金繰りでは、入出金管理を徹底・入金までの期日管理・黒字が見込めない案件を受注しないなどのポイントを抑えておくことが重要です。
なお、自社資金だけで事業運営をできない場合は、さまざまな融資についても検討する必要があるでしょう。入金までのスピードが迅速であるオンライン融資や、金利が低い利率で設定されている日本政策金融公庫を活用するなど、その時々において最適な資金調達方法を採用することが重要です。
また、資金調達の1つの手法としてファクタリングを活用するのも良いでしょう。ファクタリングとは、売掛債権を売却することで資金を調達することができる手法です。そのため、工事完成後に入金される工事代金が手元にない場合でも資金調達が可能となります。
このように、上手に資金繰りをしていくことは重要です。自社にあった資金調達の方法をいくつか見つけておくことで、倒産を回避できるでしょう。
まとめ
ここまで、建設業が倒産する要因や倒産しないために講ずべき戦略について詳しく解説しました。
建設業が倒産する理由はさまざまですが、何故倒産するのかを事前に知っておくことで、倒産しないための策を講じることができるとご理解頂けたのではないでしょうか。
本記事が、建設業界で倒産させないために苦慮されているさまざまな企業の方の一助となれば幸いです。