少子高齢化や人口の流出が地方では問題視される中、地方再生に向けさまざまなアプローチが採られています。中でもエネルギー関連の施策は官民が協力して取り組むケースも見られ、現在注目を集めている分野の一つです。
この記事ではそんな地方再生において、エネルギー施策の一環である地域新電力やPPAモデルについて、注目の理由や導入に伴う懸念事項などを解説します。
地域新電力とは
地域新電力は、電力の自由化に伴い注目されるようになった取り組みです。一言で言えば電力の地産地消を推進するプロジェクトで、地域密着型の電力小売業者から電気を購入し、電力供給事業の成功へと導き、地域にその利益を還元します。
地域密着型の電力小売業者は、基本的に地域に存在するエネルギーを電気に変換し、消費者に販売します。例えば風力発電や太陽光発電のような、再生可能エネルギーを使った発電で、地域性の薄い大企業からの電力購入を回避するのが特徴です。
地域のエネルギーを使った発電により、電力事業者は地域内での電力供給と電気代の徴収を行い、地元での雇用創出や地域活性化のためのエネルギーを提供します。エネルギーに関する経済活動がその地域の中で完結するため、利益が外部に流出することなく、地元へ還元されるのが最大の特徴です。
地域新電力の現状
経済産業省の発表によると、地域新電力の導入は2015年から開始され、2018年にピークを迎えています。再生可能エネルギーを使った発電システムの導入を推進するトレンドの影響を受けており、現在も実行可能性を調査している自治体もあることから、今後その数は増加する可能性もあります。
また、地域新電力事業を営んでいる事業者は、完全に民間が運営している
- 鹿児島電力
- 水戸電力
- はりま電力
などがあるほか、自治体からの支援を受け活動している
- いこま市民パワー
- やまがた新電力
- みやまスマートエネルギー
などの自治体新電力もあります。
地域新電力導入の主な目的
地域新電力の導入によって、具体的に各地域はどのような目的を達成できるのでしょうか。
地域の経済活性化
人口規模の小さい自治体にとって、まず魅力的なのが地域の経済活性化です。都市部との取引ではなく、あくまで地域内部で経済を循環させることができるので、人間や資産が外部の地域に流出する事態を防止することができます。
地域再生の足掛かりとなっていたのが、貧弱な経済基盤を立て直すことができなかった問題です。特に観光資源などが他の地域と比べて不足している自治体は、外部から人を集めることができないだけでなく、収入を獲得することもままならなかったため、常に財政状況に不安を抱えることとなります。
地域新電力を導入すれば、電気代と電気エネルギーの取引を自治体の中で完結できるため、強力な経済基盤を構築することができるでしょう。大手電力会社を通じて、地方から都市部に資本が流出してしまう事態を防ぎ、地域再生の元手を稼ぐことが可能です。
雇用の創出
エネルギー産業を新たに自治体に創出する地域新電力は、雇用の創出においても効果を発揮することが期待されます。エネルギーを使った発電そのものは機械が行いますが、機械のメンテナンスや発電所の管理などに人手を必要とするため、雇用が生まれる仕組みです。
エネルギー産業は半永久的に収益と雇用を産み続けるため、失業率の低下や市民の収入増加に貢献するでしょう。働き口を求めて都市部に移住する人の数を減らし、人口規模のさらなる縮小に歯止めをかけます。
環境負荷の軽減
一定の雇用や経済循環が成立している、ある程度の人口規模を有する地方自治体にとっても、地域新電力の導入は効果的です。地域新電力は、地域の再生可能エネルギーを使って発電を行うため、環境負荷の軽減を推進できます。
地域の特色を生かしたエネルギーを最大限活用することで、化石燃料の使用やエネルギーの輸入を抑制し、自治体が放出する温室効果ガスの削減などに貢献可能です。環境負荷の小さい、グリーンなまちづくりは外部から人を呼び込む上でも大きな役割を果たすため、中長期的に自治体の発展に役立つでしょう。
地域新電力導入の課題
地域新電力を上手く自治体へ組み込むことができれば、多様なメリットを期待することが可能な反面、導入に当たっては懸念すべき課題もあります。
積極的な地域人材の雇用が求められる
地域新電力を中心として地域活性化を推進する場合、基本的にはその地域の人材を積極的に雇用し、地域にお金が落ちる仕組みを構築しなければなりません。
地域新電力導入に伴い問題視されているのが、地域新電力事業者が地域の人間を雇用しない、あるいはそもそも従業員を雇わないという事態です。経産省の発表によると、調査対象となった地域新電力会社の半分は、従業員が0人という体制で会社を運営しており、雇用を創出し経済循環をもたらすというメリットが丸ごと失われているケースがあるということです。
また、従業員がゼロの状況では、地域新電力というビジネスモデルを継続するためのノウハウ継承も進まず、長期的に自治体を支えられる経済基盤がいつまでも育たない懸念も残ります。
人手不足は各業界で進み、デジタル活用で必要な人手がそもそも少なくなっているという背景もありますが、地域新電力を用いて地域活性化を促す上では、意図的に雇用を創出する姿勢も求められるでしょう。
外部委託を極力回避する必要がある
もう一つ地域新電力の導入において課題となっているのが、外部委託です。自治体に詳しい人間や十分な人手が集まらないということで、その道に詳しい専門家や企業を外部から呼び込み、業務を委託してしまうと、地域新電力によって生まれた経済効果は自治体の外に流れていってしまいます。
従業員がゼロの地域新電力も問題ですが、そもそも地域新電力の運営元が外部企業というケースも一般化しつつあり、上記の調査によると、需給管理の委託割合は84%、料金請求業務の委託割合は61%に達しているということです。
一方、興味深い事例として、地域企業の出資比率が1/3超に達している地域新電力では、従業員数はそうでない企業に比べて倍増しているという結果も出ています。また、そのような企業では販売電力量の 平均増加率も倍増しているということで、地域企業の積極的なコミットが求められるところです。
PPAモデルとは
エネルギー産業を地方再生の文脈で考えるとき、もう一つ考慮したいのがPPAモデルです。PPAはPower Purchase Agreementの略称で、通称では電力販売契約や第三者モデルという名前で知られています。
自治体や企業の土地や施設の屋根を借り、別の事業者が太陽光発電をその場所で行うことで、発電した電気を貸し出した自治体や企業が受け取り、CO2排出や電気コストの削減が可能というモデルです。
PPAモデルのメリット
PPAモデルのメリットは、まず施設や土地を貸し出す自治体や企業は、太陽光発電設備の導入コストがかからない点です。従来の太陽光発電の場合、発電を開始するための設備投資を土地や施設のオーナーが負担する必要がありました。しかしPPAモデルはあくまで発電設備の導入と発電そのものは別の事業者が実施するので、貸し手である自治体や施設オーナーはその負担を強いられません。
また、電力源を太陽光発電に切り替え、電気代を大幅に節約できるのもメリットです。巨大な施設を運営するオーナーほど光熱費に悩まされますが、PPAモデルによる簡単導入を実現すれば、その負担を大幅に軽減できます。また、太陽光という自然エネルギーを利用する発電形態のため、SDGsの実践にも役に立ちます。
太陽光発電から生まれた余剰電気は、蓄電池に貯めておき、夜間や災害時に利用する使い方もできます。非常用電源設備の拡充においても、PPAモデルが役に立ちます。
もちろん、発電設備の導入だけでなく、メンテナンスも第三者の事業者が担当するので、その負担をオーナーが強いられることはありません。
PPAモデルの懸念点
PPAモデルも地域新電力同様、多くのメリットを持つ反面、導入に当たっては知っておくべき懸念点もあります。
まず、PPAモデルの導入に伴い土地や施設を貸し出すオーナーは、太陽光発電設備を契約期間中に勝手に買い替えたり、破棄したりすることができません。契約は10年単位に及ぶことも珍しくなく、貸し出している土地を契約中に別の事業に運用するようなことは極めて難しいため、あらかじめ運用計画を把握しておきましょう。
また、契約期間を満了した後はそのまま太陽光発電施設がオーナーに譲渡されるため、それ以降はメンテナンスを自前で行わなければいけません。永年メンテナンスが無料というわけではないので、その点も注意が必要です。
まとめ
この記事では、地域新電力やPPAモデルがなぜ地方再生において注目されているのか、そのメリットを中心に紹介しました。いずれの方法も自然エネルギーや再生可能エネルギーを使った、持続可能性に優れる発電手法、及びビジネスモデルであるため、積極的に導入を検討すると良いでしょう。
ただ、導入に当たってはそれに伴う制約やコストの発生も懸念されるため、それが受け入れられるレベルのものかどうか、考えておく必要はあります。