若者が地域企業のDX化に挑戦! ー地域密着型DX支援の現場とは?

若者が地域企業のDX化に挑戦! ー地域密着型DX支援の現場とは?

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地方都市の中小企業も、デジタル化の波の中で変革が求められています。今回は、岩手県一関市で企業のDX支援を進める「デジタルラボ一関」の取り組みに注目し、地域の企業が直面する課題や支援の実態について掘り下げます。デジタルラボ一関の若手メンバーである荒牧健斗氏、澤田昌平氏、山川智美氏にお話を伺いました。

〇デジタルラボ一関とは?
岩手県一関市の企業DX推進事業(デジタルラボ事業)をベースに設立された一般社団法人。ー関市の地域おこし協力隊がデジタルラボ一関内の中心メンバーとなり、「まちのデジタル屋」として一関市内の企業に対して無償DX支援を行っています。

ーー一関市内のDX支援に若い地域おこし協力隊の皆さんが奮闘されている現状についてお話を伺いしたいと思います。まず、デジタルラボ一関内での皆さんの役割や活動内容について教えていただけますか?

荒牧氏(以下敬称略):私たちは市からの委託を受け、市内の事業者のDX支援を無償または低コストで提供しています。

澤田氏(以下敬称略):市からの委託に基づき、市内の事業者を訪問しDX支援を行っています。地域おこし協力隊の制度を活用しているため、私たち自身も市の負担やカスタマイズ費用を抑えた形で活動できているのが特徴です。

ーーありがとうございます。ちなみに、皆さんの具体的な活動内容について、教えていただけますか?

荒牧:私たちは事業者を訪問し、抱えているお悩みを伺い、その解決に取り組んでいます。多くの場合、パソコンやExcelの基本操作など、ITスキルに関するご相談が中心です。話が進むと、政策レベルの課題への関心が高まることもあります。

澤田:私も基本的には同様の活動を行っていますが、特にパソコンの基本操作については丁寧にサポートすることを心がけています。また、在庫管理を紙ベースで行っている事業者が多いため、Excelを活用した管理方法を提案し、ペーパーレス化を推進する支援も行っています。

山川氏(以下敬称略):私はアプリ開発ではなく、バックオフィス業務に関するサポートを担当しています。具体的には、Excelを使った資料作成やフォルダ管理のサポートを行い、これらの操作が難しいと感じる方々にレクチャーを提供しています。

ーーありがとうございます。皆さんは、これまでIT関連の業務に携わっていたご経験があるのでしょうか?

荒牧:私は以前、パーソナルトレーナーとして働いていましたので、IT系の業務経験はありません。

澤田:私は前職でパソコン教室の講師をしており、主にExcelなどのオフィスソフトの使い方やパソコン操作を教える仕事をしていました。

山川:私は前職で医療事務をしていました。パソコンには専門学校で触れた程度ですが、勉強しながらこの仕事に取り組んでいます。

ーー皆さんそれぞれ、どのような企業や事業者を支援されているのか教えていただけますか?

荒牧:支援先は非常に幅広いです。従業員が100人以上の一関市に誘致された企業から、小規模な個人事業主の方まで、さまざまな事業者の支援を行っています。

澤田:私も同様に、工場関係の事業者を訪問し、支援を行っています。例えば、業務フローの全体像が把握できていない場合、そのフローを一緒に洗い出すことから始めます。これは時間のかかる業務ですが、双方で業務フローをしっかり確認しながら進めることで、DX導入もよりスムーズになります。DXといっても、いきなり新しいソフトを導入するのではなく、現状の業務フローとの整合性を取りながら、最適な形を模索しています。

また、中小企業や個人商店では、まだペーパーレス化が進んでいない場合が多く見られます。このような場合、まずはパソコンやExcelの基本操作やデータの保存方法など、基礎的なサポートから始めています。

山川:私は主に商店や個人事業主の方々を支援しています。澤田さんと同様に、小規模な商店や個人事業主の事業者を訪問し、一緒にサポートを行っている状況です。支援内容も澤田さんと重なる部分が多いです。

ーー皆さんはチームで活動されているのでしょうか、それとも個人で対応されているのでしょうか?

荒牧:状況に応じて対応しています。チームで取り組むこともありますが、簡単な業務であれば個人で対応することも多いです。

ーー支援先の規模別の割合について教えていただけますか?

荒牧:おおよそですが、支援先の3割が比較的大きな事業者で、残りの7割が小規模な事業者です。

ーー小規模な事業者というと、1人で運営しているようなところも含まれるのでしょうか?

澤田:最小規模のところでは、1人で運営している個人事業主も含まれます。

ーー小規模事業者の場合、どのような支援を行っているのか、具体的な内容についてもう少し伺いたいと思います。わかりやすい事例があれば教えていただけますか?

荒牧:1人で運営している事業者の場合、ITに詳しくない方が多く、パソコンを業務に活用する機会が限られていることが多いです。効率化を図りたいと思っていても、日々の業務で手一杯で調査や学習の時間が取れないのが現状です。そういった方々に対して、私たちは専門家として支援に入り、アドバイスやシステムの構築を行っています。

澤田:例えば、会計ソフトや販売管理ソフトへの入力作業を自分で行わなければならない場合、パソコンがただデータを保存しているだけで整理されていないケースが多く見受けられます。そのような状況では、データを整理し、業務がよりスムーズに進むように支援しています。

ーーなるほど。データが整理されていないというのは、具体的にどのような状態を指しているのでしょうか?

澤田:まず、Excelファイルの数が非常に多く、必要以上に細かく分けられているケースが見られます。とりあえず情報を保存はしているものの、何が重要なデータなのか明確になっていないため、どれを本当に残すべきかが判断できていない状況です。その結果、例えば年度ごとの決算時期になると、必要なデータを探し出す作業が非常に大変になり、業務が急に増えるという問題が発生します。私たちはそのようなデータを整理し、効率的に管理できるようサポートしています。

ーー実際に支援を求めている事業者の方々は多いですか?

澤田:支援を必要としている事業者は多いですね。多くの事業者が課題を抱えてはいるものの、何をどのように解決すればよいのかがわからない状況にあります。

ーー課題解決方法がわからないため、何もせずにいる事業者が多いのでしょうか?それとも、何かしようと試みているものの、うまくいっていない場合が多いのでしょうか?

澤田:何もせずにいる事業者も確かにあります。特に従業員の年齢層が高い事業者の場合、そもそもパソコンを使うこと自体を諦めてしまっているケースが見受けられます。DXの導入は試みているものの、例えばレジには最新の機器が導入されているにも関わらず、使い方がわからずに宝の持ち腐れ状態になっている事業者も多いです。

また、IT導入補助金などを活用してソフトウェアを導入したものの、実際にはその機能を十分に使いこなせていないケースもあります。導入には積極的でも、活用まで至っていない状況が多いですね。

ーーさまざまな制度があるものの、実際にはITやDXに関する取り組みがうまく稼働していないケースが多いということでしょうか?

澤田:その通りです。実際にITやDXに関する設備やツールは導入されているものの、十分に活用されていないケースが多いです。また、若い方が新たなやり方を提案しても、どうしても従来のやり方に戻ってしまうというケースもあります。変革の意識はあっても、1人では組織全体を変えきれないという場合も多いですね。

ーーそのような場合、具体的にはどのような形で解決に向けた支援を行っているのでしょうか?

澤田:理想を言えば、内部から変革が起こることが最も望ましいです。そのため、内製化を目指し、業務フローを整えながらサポートを行っています。最終的には、社内でDXやシステム管理を担う担当者(社内SE)が育成され、外部のシステム担当者と交渉・連携できるような形を目指しています。

また、私たちは特定の企業からの依頼ではなく、公平な立場で支援しているため、無理に新しいサービスを導入することはありません。Excelで対応できる部分はまずExcelで試してもらい、さらに効率化が必要であれば、次のステップとして新しいツールを検討してもらうなど、段階的なアプローチをとっています。まずは変化に慣れていただくことが第一歩です。

1回目の支援で効果を実感していただいた後に、さらに改善提案を行うと、より積極的に受け入れてもらえることが多いです。

ーーExcelでまず試してから、次のステップに進む理由について教えていただけますか?

荒牧:主な理由は、インターフェースの変化が少ないため、導入へのハードルが低いことです。Excelは10年、20年前から使われているツールで、多くの方がある程度慣れています。一方で、kintoneやGoogle Workspaceなどの新しいツールに比べ、Excelのほうが馴染みがあり、導入時の抵抗感も少ない傾向にあります。まずは慣れているツールで取り組むことで、次のステップに進むための基礎が整えやすくなると考えています。

ーー実際、支援は無料で提供されているのでしょうか?ツールの開発や作成まで行っているのでしょうか?

荒牧:基本的には無料でアドバイスを提供しています。ただし、大がかりなアプリ開発やサービスの作成などに関しては有償となります。Excelの修正や簡単なサポートに関しては無償で対応しています。

ーー無償で支援を提供された後、支援を受けた会社に何か変化はありましたか?例えば、従業員数が少ない企業でも、効果が見られるということでしょうか?

山川:そうですね。特に総務の立場からすると、FAXや手書きの業務が効率化され、精神的にも負担が軽くなったと感じる部分が多いかと思います。

澤田:DXの導入は、まず取り組みやすく、効果が高い部分から始めることが重要です。小さな成功を積み重ねることで、『これなら楽になる』と実感していただけると、他の業務にもDXを取り入れたいという意欲が高まる傾向があります。

ただ、個人事業者の場合、『業務が楽になった』と感じても、それ以上に積極的な変革には至らないことも多いです。新しいツールの導入が必要だと実感していただけるかどうかは、状況によりけりです。

ーー個人規模と大規模な事業者では、DXの効果や取り組み内容も異なるのでしょうか?

荒牧:そうですね、例えば、削減できる時間も異なりますし、個人事業者の場合DXというよりは、まだ効果測定以前の段階の業務改善を行っていることが多いです。データ構造を整理することが主な目的で、厳密にはDXと呼べない場合もあります。

山川:それでいうと、省力化とは少し異なる面もあります。元々必要のなかった業務を削減しているわけではなく、例えば販売管理ソフトと会計ソフトの間に自分で作ったエクセル管理表を活用しているようなケースもあります。

それがあることで見える化ができ、奥様が経理を手伝う場合にもわかりやすく整理される、といった効果があります。一人でやっていた作業を二人で協力して進められるようになる、というところまでサポートできているかと思います。

荒牧:データ構造の整理が目的で、省力化の効果はそこまで高くないかもしれませんが、理想的にはこうした手法が他の事業者にも広がっていけばと考えています。

ーーデータ構造の整理、というお話でしたが、具体的にはどのような取り組みを指しているのでしょうか?

荒牧:具体例を挙げると、Excelファイルを年度ごとに管理している場合、年度が変わるたびに設定が複雑になり、管理が煩雑化することがあります。また、Excelの関数が特殊な設定になっていると、例外に対応しづらく、複数人がデータを入力する際にバッティングが発生し、集計がうまくいかないケースもあります。さらに、表記の揺れなどが原因で無駄な手間が増えることもあります。

多くの場合、集計作業は手動でコピー&ペーストを繰り返すなど、地道な作業に頼っているため、改善の効果はそれほど大きく見えないかもしれません。しかし、このような基本的な構造を整えないと、集計や他のソフトウェアへの移行が難しくなるんです。

澤田:現状では、Excelデータのやり取りが主流であるため、誰かが一度紙に出力したものを手入力しているといった非効率なケースも見られます。Excelは本来、計算や集計のためのシートであるにもかかわらず、入力用のシートとしても使われてしまっているのが現状です。

こうした流れを改善することで、不要なコピー&ペーストや入力の手間がなくなり、業務がスムーズに進むよう支援しています。

ーーつまり、Excelの使い方に問題があるということなのでしょうか?

荒牧:そう言えると思います。正しい使い方とは少し異なるケースが多く、少なくとも効率的ではない方法で使われていることが見受けられます。具体的には、集計がしにくかったり、データがまとまりにくく、入力ミスや表記揺れが起きやすいといった問題が発生します。私たちはこうした問題を防ぐため、データの整理や標準化のサポートを行っています。これは、DXの効果を即座に得るというよりも、将来的に別のプラットフォームに移行するための下準備と考えています。一般的なDXの概念とは少し異なり、機械がデータを効率よく扱えるようにするための基盤作りとも言えるでしょう。

ーー具体的に、よく見られる問題としてはどのようなパターンがありますか?

荒牧:よくあるのは、Excelのシートに入力しつつ印刷もできるようにするため、A4サイズに合わせたレイアウト調整を繰り返しているケースです。こうしたシートでは、集計用と表示用のデータが混在しているため、構造が複雑化し、後から使いづらくなることが多いです。また、印刷文化が根強く残っていることも影響しています。Excel本来の使い方とは異なり、関数を使ったセルに直接データを入力するなど、基本的な誤用もよく見られます。

最近のDX推進の流れで、Excelの使い方も変わりつつあると感じています。単に計算するための表計算ではなく、データを加工・分析するツールとしての役割が重視されてきている印象です。そのため、もう少し体系的にデータ管理を考える必要があるかもしれません。

ーーデータの加工やグラフ化とは、具体的にはどのようなイメージでしょうか?

澤田:例えば、データをその場で入力して集計するのではなく、既に他の場所で入力されたデータを利用して結果を表示する形が理想的です。入力されたデータが自動的に計算され、その結果がグラフやピボットテーブルで表示される、という状態ですね。しかし現実には、すでに表示されている集計結果や表に手入力してしまうケースが多く、そこが効率化の妨げとなっています。

荒牧:具体例として、お弁当注文データを例に挙げますと、まず生データを取得し、それを関数で加工して使いやすくした後に、印刷用フォーマットに整えるといった3段階のプロセスが通常です。しかし、多くの事業者は生データを直接入力・表示しようとし、こうしたステップを省略してしまうことが多いですね。

ーーそのようなデータ構造の改善について、実際に指導を行っているということですね?

荒牧:はい、私たちは事業者からExcelデータを預かり、それを適切なデータ構造に整えています。この方法で、実際に使ってみて『このやり方の方が便利だ』と実感していただくしかない部分も多いです。データ構造の正しさについては、座学だけでは理解しづらいので、実際の体験を通じて学んでいただくのが効果的です。

ーー改善が実現できた場合、どのようなメリットが得られるのでしょうか?

荒牧:それが可能になると、データベースソフトの導入、例えばkintoneなどへの移行がスムーズになります。データが整然としているため、グラフや集計も簡単に行えるようになります。これまではその日のデータしか集計できなかったものが、長期的なデータ分析や意思決定に役立つ情報を得られるようになります。

ーー支援先の多くでは、まだそのような状態に至っていないということでしょうか?

荒牧:そうですね。大企業でも、データベースが整っているのは社員情報のみといったケースが多く、製造業の根幹システムがある場合でも、周辺システムには浸透していない印象です。外部がシステムをセットアップしてそのまま使い続けているケースも少なくありません。現場レベルでは、いわゆるデータドリブンではなく、単にレポート作成のためにデータが使われている状況です。

ーーデータドリブンが可能になると、どのようなメリットが得られるでしょうか?

澤田:例えば、業務にかかるコストや時間を把握することができ、経営面での根拠に基づいた意思決定が可能になります。現場レベルで感覚に頼った判断が多い現状では、十分なデータがないために判断が賭けのようになってしまうこともあります。データに基づく意思決定ができれば、マーケティングやその他の戦略にも安定性が増すというメリットがあります。

ーー支援を通じて、そうしたデータ構造の下地作りをお手伝いしているということですね。

澤田:そうですね、下地作りです。一関全体でフォーマットを標準化することを目指しています。

ーー現状の課題としては、データ構造やExcelの使い方といった点が大きいという理解でよろしいでしょうか?

荒牧:はい、現状ではその部分が大きな課題です。皆さんがExcelを使っているため、Excelに関する話が多くなりますが、本質的な課題はデータ構造への理解不足です。Excelから他のシステムに移行できないのは、データベース構造の理解が不足しているからだと感じます。

例えば、kintoneなどのデータベースツールを使うためには、ある程度データ構造を理解していないと難しいですよね。現在のように、日報を紙で書き写すように入力していると、それがただの確認用データで終わってしまい、蓄積されたデータを参照できない状況が生まれます。そのため、一度上司に見せて終わるだけの使い方になりがちです。日々のデータが1枚ずつ並んでいるだけで、集計や分析ができるわけではない、というのが現状です。

ーー今後、こうした課題をどのように解決していくお考えでしょうか?理想も含めてお聞かせいただけますか。

澤田:現状は、まだデータの蓄積が始まったばかりで、初期段階の取り組みが中心です。しかし、データが蓄積されてくると、それを分析やマーケティング、業務の効率化に活用できるようになる可能性が広がります。その可能性が見えてくると、ようやく本格的なDXの取り組みに移行できると考えています。まずはその可能性を広げるための土台作りが重要だと思っています。

ーー一関市内の企業向けに社内セミナーや研修も行っていると伺いましたが、それもDX推進の一環なのでしょうか?

荒牧:はい、もちろんその一環です。

澤田:社員のスキル向上も必須だと考えています。システムの導入も大切ですが、それを扱う人の意識や考え方を変えることが何より重要です。現在は納品という形で直接の指導を行っていますが、間接的なサポートだけでは外部任せになりがちです。

荒牧:さらに、現場の方々との交流も大切にしています。現場からDXの必要性が自然に声として上がるようにならないと、会社全体での推進は難しいと思います。トップダウンで導入するのではなく、現場から『こういうことがしたい』、『この部分で困っている』といった意見が出てくるような環境を目指しています。

ーー現場からの意見には、どのようなものがこれまで寄せられてきたのでしょうか?

荒牧:そもそも、課題の認識が現場と経営層で異なるケースが多いです。経営層が解決すべきと考えている課題と、現場が感じている課題が一致していないことがよくあります。問題意識の持ち方や焦点が異なるのです。

たとえば、データ構造の課題があっても、現場ではExcelのファイル管理や業務の効率化といった具体的な業務課題に関心が向きがちです。一方で経営層は、DXを導入することでの全体的な効率化を目指していますが、その目的が現場と十分に共有されていないことがあります。

結局、DXという言葉が叫ばれながらも、効率化が実現されていないケースも少なくありません。目的と進むべき方向について、経営層と現場の間で認識が合っていないのが原因です。時には、企業全体としての目標を明確に再構築するお手伝いをすることもあります。

ーーDXにおける課題は、組織全体の円滑な運営に関わる問題とも言えそうですね。

荒牧:そうですね。結局はITの浸透度合いに問題があると感じます。支援が入ることで、共通の認識を持って同じ目標に向かって取り組むことが可能になります。しかし、現状では経営層と現場で見ているものが異なるため、認識がずれたまま進んでしまっているのです。これがDXの浸透を阻む一因だと思います。

ーー山川さんは支援を通じて、どのような課題を感じられましたか?

山川:ペーパーレス化が進んでいる一方で、Excelの活用がほとんど浸透していないケースに驚きました。高齢の方が多い職場では、パソコンやExcelに慣れておらず、電卓での計算が速いと感じている方も少なくありません。紙ベースで経費精算や在庫管理を行っている方も多く、Excelを課題解決のツールとして認識していないのが現状です。

ーーそのような場合、どのように支援を進めていますか?

山川:最初は、紙のフォーマットにExcelの関数を組み込んだ簡単なシートを作成しました。元々使い慣れた形式に寄せることで、いきなりExcelを使うことへの抵抗感を和らげることができたと思います。このように既存の形式に合わせた支援を心がけています。

ーー支援には段階的なアプローチが必要だということですね。

山川:はい、いきなり高度なシステムを導入すると混乱が生じることもあるため、段階を踏んだ支援が重要だと思います。

ーー今のお話は、Excelに不慣れな方への支援方法ということですね。

山川:そうですね。

ーー今後挑戦していきたいことをお聞かせいただけますか?

荒牧:まずはデータ構造の整備から着手したいです。その上で、DXの効果がしっかりと現れる分野、例えば意思決定のサポートやコスト削減といった企業にとって具体的なメリットを提供できる部分に取り組んでいきたいと考えています。ただ、現状ではまだ前段階の取り組みが多いため、まずは抵抗感を抱かれないように進めていくことが大切だと思います。

澤田:理想としては、一つの会社で全てのプロセスを整備したモデルケースを作りたいと考えています。こうした成功例があれば、他の企業にも広がりやすくなると思います。

ーーデジタルラボ一関自体がまだ新しい取り組みの中で、そうしたモデルケース作りを進めているのですね。

荒牧:はい、便利なツールがたくさんあるものの、そもそも導入に至っていないのが現状です。まずは導入の第一歩として、データ整備から始めることが重要だと感じています。

ーー今後は、各企業に合った形でのシステム導入やサービス比較の支援も行っていくということでしょうか?

荒牧:はい、現状では特定のパッケージサービスを販売しているわけではなく、まずは各社に適したサービスの調査から始めています。『このサービスが自社に合うか分からないので調べてほしい』という要望も多く、そうした調査を通じて最適な提案を行っています。

デジタルラボ一関の強みは、行政からの委託業務を通じて、特定の製品やサービスに縛られることなく、各企業に最適なソリューションを柔軟に提供できる点です。大企業が提供するプロダクトを企業のニーズに合わせて適切に導入支援できることが、私たちの役割だと考えています。

ーー地域のイベントでもDX支援を行っていると伺いましたが、具体的にはどのような支援をされていますか?

荒牧:以前、イベントは紙での運営が主でしたが、現在はGoogleフォームを使ってデジタル化しました。

ーー以前はアンケートも紙で実施されていたんですよね。

澤田:そうですね。以前は紙でアンケートを取っていましたが、デジタル化することでフィードバックが簡単に収集できるようになりました。例えば、QRコードを使ってGoogleフォームにアクセスしてもらい、データをデジタルで蓄積しています。これにより、集計やグラフ化が容易になり、フィードバックが得られやすくなりました。Googleフォームを使うことで、データが積み重なって次年度以降の比較もしやすくなり、効果があると感じています。

ーーデータが蓄積されることで、翌年や再来年との比較もできるようになるわけですね。

澤田:はい。項目を絞ることで年ごとの比較が可能になります。意外と便利で、継続することで価値が増していくと思います。

ーー支援数の累計は今どのくらいになっていますか?

荒牧:現在、累計で63件です。

ーーこれにてインタビューを終わります。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

一関市の企業DX推進に取り組むデジタルラボ一関の活動は、地域の企業が抱える課題に真摯に向き合い、現場に寄り添った支援を続けることで、着実に変化を生み出しています。荒牧氏、澤田氏、山川氏らの熱意あるサポートが、地域経済の活性化とデジタル化の基盤作りに大きく貢献していることが伝わってきました。今後も一関市のDX推進において、彼らの取り組みが新たなモデルケースとして発展していくことが期待されます。

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