サーチファンド型事業承継とは?─中小企業の未来を担う“個人主導型M&A”

サーチファンド型事業承継とは?─中小企業の未来を担う“個人主導型M&A”

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近年“後継者不足”が深刻さを増す中小企業界で、サーチファンド型事業承継(以下「サーチファンド」)は「人(次世代経営者)を軸に会社を引き継ぎ、成長させる」手法として急速に注目度が高まっています。

中小企業庁が令和6年6月に発表した資料「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性」では、「サーチファンド型事業承継」が新たな承継モデルとして取り上げられました。後継者不在に悩む地域企業にとって、大きな可能性を秘めたこの仕組みに注目が集まっています。

本稿では最新のM&A全体の潮流とサーチファンドの動向、さらにメリット/デメリットと国内の成功事例をまとめてご紹介します。

サーチファンドとは何か?

 資金管理と市場コンセプト パソコンとビジネスパーソン

サーチファンドとは、若手の経営者候補が投資家の支援を受けながら、後継者のいない企業を探し(サーチ)、買収・承継し、自ら経営者として企業を成長させていく仕組みです。欧米では1980年代から広く普及しており、日本でもスタートアップ志向の人材や地方創生の観点から注目が高まっています。

中小企業の後継者不足が深刻化するなかで、サーチファンドは新たな事業承継モデルとして期待されています。これは、経営を志す個人(サーチャー)が主体となり、企業を探索・買収し、自ら経営を担うという点で、従来のM&Aとは異なる特徴を持っています。

日本でもこのモデルの導入が徐々に進んでおり、若手人材が実践的な経営の第一歩を踏み出す手段として、今後ますます注目されることが予想されます。

サーチファンドの5つのステップ

ここでは、「サーチファンドによる事業承継の流れ(プロセス)」を時系列で解説します。以下は、サーチファンドを活用して経営者になるまでの5つの主要ステップです。

ステップ 内容 期間・費用などの目安
1.サーチ資金調達 サーチャーが企業探索活動のための資金(年500〜1,000万円)を投資家から調達する 活動準備フェーズ
2.企業探索・DD(デューデリジェンス) 対象となる中小企業を調査・選定・交渉 約1〜2年
3.買収資金調達・株式取得 投資家や銀行から本格的な出資・融資(LBOなど)を得て会社を買収 数億円規模が一般的
4.経営就任・成長フェーズ サーチャーが社長として企業を経営し、業績改善や成長を目指す 約5〜7年が目安
5.Exit(リターン還元) 売却、IPO(上場)、MBO(自社買い取り)などにより、投資家に利益を還元 成長の成果を回収する段階

このように、サーチファンドは「資金調達→企業探索→買収→経営→Exit」という一連のサイクルを通じて、サーチャーがゼロから中小企業の経営者となるまでの道筋を提供します。

従来の法人間M&Aと異なり、サーチファンドの大きな特徴は「誰が企業を承継するか」という“人”に焦点を当てた「個人主導型」の事業承継スキームである点です。後継者不在に悩む企業に対し、熱意ある個人が経営を引き継ぐことで、事業の持続と発展を図ります。

近年では、このスキームを支援する体制も整いつつあります。中でも代表的な存在が、株式会社Japan Search Fund Accelerator(JaSFA)です。JaSFAのような「サーチファンドアクセラレーター」は、資金提供にとどまらず、経営ノウハウの提供、承継企業とのマッチング、投資家ネットワークの紹介など、包括的な支援を通じて、個人による円滑な事業承継を後押ししています。

サーチファンドアクセラレーターとは?

サーチファンドアクセラレーターとは、サーチファンドを活用して中小企業の経営を担おうとする若手経営者候補(サーチャー)を支援する組織や仕組みのことを指します。具体的には、サーチャーが企業を探索・買収・経営するまでの一連のプロセスにおいて、資金面・教育面・実務面での支援を包括的に提供する役割を担います。

サーチファンドは優れた仕組みである一方で、「資金調達の難しさ」「実務経験の不足」「企業や投資家からの信用の壁」といった課題があり、個人の力だけでは乗り越えづらいのが現実です。アクセラレーターは、こうした壁を支援の力で乗り越え、「若手経営者×後継者不在企業」という社会的に意義のあるマッチングを成立させるための基盤を提供しています。

このような支援機関は欧米でも多数存在しますが、日本国内においては「株式会社Japan Search Fund Accelerator(JaSFA)」が代表的な存在として知られています。

JaSFAは2018年に設立され、代表の嶋津紀子氏(元BCG、スタンフォードMBA)を中心に、志のあるサーチャーの発掘・育成・ファンド組成・事業承継支援までを一体的にサポートしています。野村リサーチ&アドバイザリーや中小機構、ゆうちょ銀行などと連携し、日本最大級のサーチファンド向け投資プラットフォーム「JSFP(Japan Search Fund Platform)」の運営にも関わっています。

実際にJaSFAが支援した案件では、株式会社アレスカンパニー(大富涼氏)、株式会社フレスコ(岡部祐太氏)、株式会社ネクスト(髙山恵史氏)など、多数の成功事例が生まれています。これらの事例は、サーチファンドが単なるM&A手法ではなく、「人間力を軸とした経営承継」として有効に機能していることを示しています。

今後もサーチファンドアクセラレーターは、地方創生や中小企業の持続的成長、若手経営人材の育成といった観点から、ますます重要な役割を果たしていくことが期待されます。

中小企業庁、サーチファンド支援を本格化

中小企業庁は、サーチファンド型事業承継を第三者承継(親族外承継)の有力な手段と位置づけ、以下のような政策支援を進めています。

・中小機構がファンド設立を支援

中小企業基盤整備機構(中小機構)は、令和5年12月に「サーチファンド型ファンド」の募集を実施。現在、出資決定に向けた準備が進められています。これは、サーチファンドを活用した事業承継の実例を増やすための基盤づくりです。

・複数企業の承継・再構築にも期待

「中小グループ化・事業再構築等支援ファンド」により、複数の中小企業をまとめて承継・再編(ロールアップ型M&A)する取り組みも支援の対象に。サーチファンドの仕組みが、このような構造転換にも有効であると期待されています。

・地域の後継者不在企業への新たな選択肢

中小企業庁は、地域企業の後継者不足に対応する手段として、外部人材による事業承継支援の強化を進めています。今後は、「事業承継・引継ぎ支援センター」やマッチングプラットフォームとの連携を強化し、全国的な展開を視野に入れた支援体制の整備が進められる見通しです。

承継=世代交代から経営継続の戦略へ

サーチファンド型事業承継は、“事業を存続させるための戦略的選択肢”として、単なる親族内承継に代わる新たな道を提示しています。中小企業の後継者問題に悩む現場にとって、今後の選択肢として大きな可能性を持つ制度です。引き続き、制度の整備状況や支援の広がりに注目が必要です。

日本のM&A動向(“量”より“質”)

握手をするビジネスパーソン

2024年の日本におけるM&A(企業の合併・買収)は、全体としてはやや落ち着いた状況にあります。特に中小企業やスタートアップなどの小規模M&A案件は、世界的な金融引き締めや国内外の政治的な不透明感の影響を受け、件数が減少しました。

一方で、100億円を超えるような中〜大規模案件については、企業の成長戦略や事業の選別を目的とした積極的な取り組みが続いています。また、経済産業省が新たに発表した「企業買収における行動指針」により、これまで日本であまり見られなかった「敵対的買収」や「同意なきMBO(経営陣による買収)」といった手法も少しずつ普及してきています。

このように、M&A市場は“量”よりも“質”へとシフトしつつあり、再編や承継の場としてのM&Aの役割は今後ますます重要になると考えられます。

指標 2023年 2024年 増減
日本企業が関与した全M&A件数 4,552件 3,802件 ▲16%
うち国内ディール 3,706件 3,104件 ▲16%
うちクロスボーダー 846件 698件 ▲18%

選別と再編の時代へ突入

2024年のM&A動向を振り返ると、全体件数は減少したものの、成長戦略としてのM&Aは依然として健在であることがわかります。企業がコア事業に資源を集中させる「選択と集中」や、事業承継に向けたM&Aの活用は今後も増えていくでしょう。

また、政策面でのルール整備が進んだことで、M&Aは“守り”ではなく“攻め”の経営戦略として認識されるようになりつつあります。これからの時代、M&Aをどのように活用するかが、企業の成長と持続可能性を左右する重要なポイントとなるでしょう。

サーチファンドの国内動向

日本の夜景と世界地図

サーチファンドの手法は、欧米ではすでに確立された事業承継モデルとして知られていますが、近年日本国内でも急速に広まりつつあります。特に2020年代以降は、アクセラレーター型の支援機関や政策的な後押しを背景に、実際のM&A成約件数が着実に増加しています。

すでに累計38件のサーチファンドが活動を開始し、そのうち23件でM&Aが成立するなど、成約率は海外平均を上回る約85%に達しています。また、地域金融機関の中でも先進的な取り組みとして注目されているのが山口フィナンシャルグループ(YMFG)です。YMFGは2024年には国内初となるサーチャー自身によるMBO(マネジメント・バイアウト)も実現しており、地域経済へのインパクトも大きくなっています。

さらに、2024年6月に発表された中小企業庁の政策方針では、「サーチファンドの育成」が明記され、中小企業基盤整備機構による公募型ファンドへの出資が始まるなど、国としても制度設計の強化を進めています。

民間と政策の両輪で加速する、日本型サーチファンドの確立へ

こうした動向を見ると、日本におけるサーチファンドは“理論”から“実行段階”へと確実にフェーズが移行していることがわかります。民間ではJaSFAや地銀が積極的な支援を展開し、制度面でも中小企業庁が本格的に育成支援を打ち出すなど、実践・支援・政策が三位一体で機能し始めているのが大きな特徴です。

これにより、サーチファンドは単なる事業承継手段にとどまらず、地域経済の再生や若手人材の起業的キャリア形成にも貢献する「社会的イノベーション」としての色合いを強めています。今後は、さらに多様な業種・地域・世代を巻き込んだ、日本型サーチファンドモデルの確立が期待されます。

地域特化型サーチファンドも

地域特化型サーチファンドも直近立ち上がりつつあります。株式会社日本M&Aセンターホールディングスは、地域金融機関と連携した地域特化型サーチファンドの管理運営会社となる株式会社日本サーチファンドを2024年10月に設立。北海道では北洋銀行、北陸では北陸銀行、南九州では、肥後銀行、鹿児島銀行、宮崎銀行と共同で地域特化型サーチファンドを設立、各エリアにおける事業承継を推進しようとしています。

サーチファンドのメリット

展望するビジネスパーソンの人型と矢印のイメージ 

サーチファンドは関わるすべてのステークホルダーにとって多面的なメリットをもたらします。

譲渡企業(オーナー)にとっては、信頼できる後継者にバトンを託すことで、企業の独立性やブランドを守りながら円滑な承継を実現できます。以下に、ステークホルダーごとのメリットを一覧表にまとめました。

ステークホルダー メリット
譲渡企業(オーナー) 後継者の“人柄”を見極めて承継できる/企業ブランド・独立性を維持
サーチャー 若くして経営者になれる最短ルート/成功報酬(キャリード)で高い経済的upside
投資家 少額からディレクテッド投資が可能/長期で社会的インパクトも狙える
地域社会 雇用維持とDX・海外展開等による成長促進

サーチファンドの最大の魅力は、「経営のバトンを誰にどう渡すか」という本質的な問いに対して、人を軸にした納得解を提示できる点にあります。これは、価格やスピードを重視する従来型のM&Aとは異なり、信頼・共感・継続性を重視する日本的価値観とも親和性の高いモデルです。

経営者になりたい人、事業を託したい人、社会に貢献したい投資家、そして地域の未来を担う企業──そのすべてが利益を得る「四方良し」の仕組みとして、サーチファンドは今後の事業承継の中心的選択肢の一つとなることが期待されます。

サーチファンドのデメリット・課題

迷路を目前にするビジネスパーソン

サーチファンドは、若手人材の挑戦と中小企業の承継課題をつなぐ有望なスキームですが、その一方で現実的な課題やリスクも存在します。特に大きな課題のひとつが、サーチャー(経営者候補)自身の能力や企業との相性に大きく依存する点です。

また、企業の買収には多額の資金が必要となるため、数億円規模のエクイティ調達が必須であり、資金集めのハードルも決して低くはありません。さらに、制度や実績の蓄積が進む一方で、地方の中小企業や地域金融機関における認知度・理解度はまだ十分とはいえず、受け入れ体制の整備も課題です。

加えて、買収後の経営統合作業(PMI:Post Merger Integration)も重要なプロセスであり、規模の大小に関わらず、組織文化や業務フローを再構築する難しさが伴います。

サーチファンドを広く定着させていくには、こうした課題に対して一つひとつ丁寧に向き合い、仕組みそのものの成熟度を高めていくことが必要不可欠です。

具体的には、サーチャーの育成プログラムの整備や、資金調達面での仕組み拡充、そして地方企業への認知啓発活動といった取り組みが求められます。さらに、成功事例の蓄積と共有が、制度への信頼を高める原動力となるでしょう。

サーチファンドは、“挑戦する個人”と“つなぎたい企業”を支える仕組みです。その成功を社会に広げていくには、制度・人材・理解の三位一体での進化が不可欠といえます。

サーチファンドの国内の成功事例

ビジネスパーソンとパソコン

サーチファンドは理論的には魅力的な事業承継スキームですが、実際に機能しているのかどうかは“現場の声”が何よりの証拠です。近年、日本国内でも複数のサーチファンドによる事業承継が実現し、その多くが業績改善・組織活性化・地域貢献といった具体的な成果を上げています。

この章では、アミューズメント業界から住宅、精密部品製造、設備工事業界まで、幅広い業種でサーチファンドを通じて承継された7つの企業事例を紹介します。いずれのケースにも共通しているのは、志ある個人(サーチャー)が企業に新しい視点と推進力をもたらし、成長の第二ステージを実現している点です。

企業&業種 新社長(サーチャー) 主要な成果
アレスカンパニー(プライズ卸) 大富 涼氏 GENDAグループ傘下で新商品企画力を強化、粗利率5pt改善
フレスコ(千葉・住宅) 岡部 祐太氏 創業者が株式を保有したまま会長就任、地域密着+DXで受注単価向上
ディオントーキョー(ゴルフテック) 田中 聡氏 ゴルフシミュレーター拡販で売上30%増、創業者は会長として共創
鹿島精機工業(精密部品) 中島 祐氏 世界シェア30%の技術基盤×グローバル営業力で海外売上比率を倍増(2024→2025)
菊地設備工業/パイプマン(住宅設備) 伊藤 啓太氏 平均年齢34歳の若い組織を活かし、栃木→東北へ新規拠点展開
コスメプロ/オリエンタルコスメチック(化粧品OEM) 藤井 健氏 高品質・信頼を継承しつつ、提案力と特殊処方で差別化を図る。地域に根差した企業を独自性ある成長路線へ転換
ネクスト(厨房機器) 髙山 恵史氏 技術力とマーケティング力を融合し、段階的な承継で組織を安定化。持続可能な地域製造業の成長モデルを確立

事業承継の成功例:大富涼氏×株式会社アレスカンパニー

大富涼氏は、三菱商事やBain&Companyでの豊富なビジネス経験を経て、サーチファンド・ジャパンのサーチャーとして中小企業「アレスカンパニー」の事業承継に挑み、代表取締役社長に就任しました。

同社はゲームセンター向け景品を扱うニッチな卸企業で、大富氏はその業界特性を見極めた上で効率化と拡大に着手し、2023年にはGENDAグループへの参画によってスケールアップを実現。調達力や新商品開発力を強化し、粗利率の改善にも成功しました。

経営では「度胸と愛嬌」を信条に、営業から企画・人事まで全方位型リーダーシップを発揮し、現場との信頼関係を重視するスタイルを貫いています。エンタメ業界No.1を目指すGENDAのビジョン実現に貢献しつつ、サーチファンド制度の普及を自身のミッションと位置づけ、若手経営者への道を拓いています。

この事例は、サーチファンドが単なる承継手段ではなく、次世代の経営者を社会に送り出すための実践的な育成の場であることを象徴しています。

千葉の住宅業界を革新:岡部祐太氏×株式会社フレスコ

岡部祐太氏は、Japan Search Fund Accelerator(JaSFA)と野村リサーチ・アンド・アドバイザリーが共同運営する「ジャパン・サーチファンド・プラットフォーム(JSFP)」を通じて、千葉県の住宅会社フレスコに経営参画し、代表取締役社長に就任しました。

フレスコは宅地開発からリフォームまで手がける地域密着型企業であり、岡部氏は日本M&Aセンターやコンサルティング会社での豊富な実務経験を活かし、創業者・阿久津文和氏との信頼関係を築きながら承継を実現しました。

特徴的なのは、阿久津氏が株式を手放さず取締役会長として関与を続けている点で、これにより戦略実行と安心感が両立されています。岡部氏は「人生を賭けたいと思える会社」としてフレスコに強く共感し、単なる承継ではなく持続的成長と社会貢献を見据えた経営に挑んでいます。

本件は、JSFPの支援体制とサーチファンドの仕組みが機能した好例であり、「地域企業の発展」と「次世代リーダーの輩出」を両立するモデルケースとして、日本における持続可能な事業承継の可能性を示しています。

ゴルフテック市場の変革:田中聡氏×ディオントーキョー

田中聡氏は、サーチファンド・ジャパン(SFJ)のサーチャーとして約1年半の探索活動を経て、2023年4月にゴルフシミュレーター「OK ON GOLF」の日本総代理店である株式会社ディオントーキョーに投資・承継を実現し、代表取締役社長に就任しました。

本件はSFJ第2号ファンド初の投資案件であり、創業者の酒井貴載氏が会長として残るハイブリッドな経営体制により、ブランド継承と戦略刷新の両立が図られています。田中氏は日本M&Aセンターや上場企業役員の経験を活かし、急成長するゴルフテック市場への的確な戦略とハンズオン型経営を実行。創業者との価値観の一致や社会貢献への想いも承継の決め手となりました。

この事例は、単なる出資にとどまらず、意志ある個人が中小企業の成長を牽引するというサーチファンドの本質を体現しており、SFJの支援体制が「経営人材×中堅企業」のベストマッチを実現する好例として、日本の地域経済における新たな承継モデルを示しています。

中島 祐氏×鹿島精機工業(精密部品)

2023年6月8日、中島祐氏はサーチファンドを活用して、エアコン用コンプレッサー部品のバルブプレートを製造する老舗企業・鹿島精機工業の代表取締役に就任しました。本件はGrowthix Investmentが組成するGI-1stfundとモルガン・スタンレーMUFG証券の出資により実現されたもので、世界シェア30%を誇る同社の高度な技術力と中島氏のグローバルな経営経験がマッチした成功例です。

中島氏はオムロン、ミスミ、ニトリなど複数の企業で現場重視の経営を経験しており、慶應義塾大学および国立台湾大学MBAで培った知見をもとに、グローバル展開を視野に入れた経営を推進しています。旧代表・鹿島氏との信頼構築を重ねながら、品質や理念を重視した承継が実現され、従業員や顧客への配慮も評価されました。

支援元のGrowthixグループは、ネクストプレナー大学や資金支援を通じて次世代経営者の輩出を進めており、本件も「ゼロからの起業ではなく、企業を引き継いで育てる」新しい起業スタイルの成功例です。中島氏は「メーカー文化を尊重しながら、世界に挑むチームを築きたい」と語り、本事例はサーチファンドの理念を体現した、日本の中小企業承継の未来を切り拓くモデルケースとなっています。

栃木県初!サーチファンド型事業承継が実現

2023年9月、伊藤啓太氏はサーチファンドを活用して、栃木県の株式会社菊地設備工業および福島県の株式会社パイプマンの2社を事業承継し、GI-1stfund(Growthix Investment組成)の支援を受けて代表に就任しました。

両社は分譲戸建て住宅向けの給排水設備工事を手がけ、全国6拠点を展開する若手中心の成長企業であり、特に建設業界において高水準な後継者不在率が課題とされる中、本件は栃木県初のサーチファンド型承継としても大きな意義を持ちます。

伊藤氏はコロンビア大学MBAを持ち、戦略コンサルや地方中小企業の経営経験を活かして「現場感覚と経営力のバランスが取れた後継者」として旧代表・菊地伴和氏から高い信頼を得て承継が実現しました。今後は既存拠点の強化、新規出店、DX推進、人材育成を掲げ、従業員との信頼関係を軸に「ここで働いてよかったと思える会社」を目指しています。

本件はGrowthixグループのネクストプレナー支援スキームの成果でもあり、単なるM&Aではなく、人と文化を引き継ぎながら地域に根差す企業を次世代へとつなぐサーチファンドのモデルケースとなっています。

藤井健氏による化粧品OEM企業のサーチファンド型事業承継

2023年11月、藤井健氏はサーチファンド・ジャパン第2号ファンドの支援を受けて、奈良県の化粧品OEMメーカー・株式会社コスメプロと、東京都の販売会社・株式会社オリエンタルコスメチックを事業承継しました。

創業者・田中前社長の引退を契機に実現したこの承継は、製造から処方開発・パッケージ提案まで一貫対応する高付加価値型の老舗企業を、経営力と事業開発経験を持つネクストプレナーが引き継ぐ好例です。

藤井氏は慶應義塾大学卒で、ソフトバンクや複数のベンチャー企業、さらにはインドでのソーシャルビジネス立ち上げなど幅広い経験を持ち、技術力と信頼関係を重視する企業文化を尊重しながらも、革新と成長を目指す姿勢が評価されました。「提案力と特殊処方で勝負するOEMメーカーとして独自性を磨きたい」と語る藤井氏のもと、同社は業界内での存在感強化を目指しています。

本件はサーチファンド・ジャパンの第2号ファンド(通算6件目の投資)で、地域企業の未来を信頼できる後継者へ託すというサーチファンドの理念を体現した、事業承継の新しいかたちを示すモデルケースです。

地域製造業×グローバル人材──髙山氏の事業承継事例

髙山恵史氏は、欧州系商社でのエネルギー・機械営業やパーカー・ハネフィン日本での自動車部品マーケティングを経て、2008年に海外企業の日本進出支援を行うフェネトル・パートナーズを創業し、350社以上を支援した実績を持つ多角的な実務経験者です。

2021年よりサーチファンド・ジャパンのサーチャーとして活動を開始し、地方の省エネ厨房機器メーカー「ネクスト」の事業承継に携わりました。

本件は、サーチファンド・ジャパンが支援する累計3件目の投資案件であり、同社は日本M&Aセンターホールディングスや日本政策投資銀行などが設立母体となる、経営者育成型の投資プラットフォームです。髙山氏の国際経験とネクストの技術力が高い親和性を示し、引継ぎ期間を経た段階的な移行により、社内外の関係性も円滑に継承されました。この事例は、地方の製造企業とプロ経営人材の融合によって、持続的な地域経済の発展と産業競争力の向上を実現したサーチファンド成功の好例といえます。

まとめ

これらの事例が教えてくれるのは、サーチファンドが実際の経営現場においても十分に機能する、現実的かつ実効性のある選択肢であるということです。粗利率の改善や売上の成長、海外展開、新拠点の開設といった具体的な成果の背景には、サーチャーの実行力、創業者の信頼、そしてファンドによる丁寧な伴走支援という三者の連携がしっかりと機能しています。

また、ただ経営を引き継ぐのではなく、創業者の想いや企業文化を大切にしながら、新たな価値を共に生み出していく“共創型の承継”が実現されている点も、従来のM&Aとは一線を画す特徴といえるでしょう。今後、こうした前向きな成功例の積み重ねが、他地域・他業種への広がりを後押しし、サーチファンドが日本における新たな事業承継のスタンダードとして根付いていくことが期待されます。

サーチファンドの主な政策支援・税制のポイント

中小企業庁

サーチファンド型事業承継が現実の選択肢として広がりを見せる背景には、民間の努力だけでなく、政策・税制による後押しの強化があります。特に近年は、経済産業省・中小企業庁を中心に、中小企業の円滑な世代交代と成長支援を目的とした各種制度の整備が加速しています。

代表的なものとして、2026年3月までの計画提出で贈与税・相続税が100%猶予される「事業承継税制の特例」があり、後継者にとって大きな資金的メリットとなっています。また、M&Aの実行から統合までを支援するために「中小PMIガイドライン」が策定され、実務面での支援体制が拡充されつつあります。

さらに、M&Aの実務費用を補助する「M&A補助金」や、2024年度には中小機構がサーチファンド向けに30億円規模の出資枠を設置するなど、サーチファンドを対象とした支援も明示的に進められています。

こうした制度的支援は、事業承継に挑むサーチャーや投資家にとって、リスクの軽減と意思決定の後押しにつながる重要なインフラです。税制面での優遇により承継の負担を減らし、資金面での公的出資が調達の障壁を和らげ、PMI支援によって承継後の統合の質を高める──これらの制度は、“挑戦する人”と“引き継ぎたい企業”のマッチングをより現実的なものにしています。

今後は、これらの制度をいかに現場に浸透させ、活用しやすくするかが鍵となります。制度を「ある」だけでなく、「使える」「つながる」形に進化させることで、サーチファンド型承継の裾野はさらに広がり、日本全体の中小企業の活性化にもつながっていくことでしょう。

まとめと今後の展望

右肩上がりの棒グラフ

2025年のM&A市場は、金利環境が落ち着きを取り戻す中で、「選択と集中」を重視した大型案件と、事業承継を目的とした小規模ディールの両極化が進むと見込まれています。

サーチファンドについては、

1.成功事例の積み重ね、

2.金融機関や自治体との連携強化、

3.PMI支援の仕組み整備、

といった動きを背景に、いよいよ“発展期”に入っていく段階にあります。

今後は、「次世代経営者の育成」と「地域経済の活性化」を両立する新たな仕組みとして、税制面での優遇や公的ファンドの支援を追い風に、プレイヤーや案件数のさらなる拡大が期待されます。

💡ワンポイント💡
サーチファンドは、単なる「事業承継の手段」にとどまらず、若手人材が経営者として大きく成長する新たなキャリアの選択肢でもあります。“挑戦者不足”と“後継者不足”という2つの課題を同時に解決できる、注目のエコシステムとして今後の動きにぜひご注目ください。

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