パーパス経営とは?菊地天平氏へのインタビュー

パーパス経営とは? (菊地天平氏へのインタビュー)

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菊地天平氏
天平株式会社代表取締役。日本体育大学 体育学部卒。スポーツクラブのインストラクター、出版社の営業職を経て、2012年に「思考と組織をアップデートすることでイキイキと働ける会社・社会をつくる」というパーパスを掲げた天平株式会社を設立。思考力のトレーニング、組織開発、パーパス経営コンサルティングを提供。

ーーパーパス経営とは何でしょうか?

菊地天平氏(以下、敬称略):まず、社会の持続可能性を高めようという話が大前提にあります。アメリカのロビー団体「ビジネスラウンドテーブル」で、利益を最大限、最優先に求めていく経営から、社会にとって価値のある事業をしていかないと地球が持続不可能になってしまうという危機感から、パーパス経営を推奨していこうということになったのが始まりです。

私なりの定義ですが、社会の持続可能性を高めるために、企業が社会における存在意義をパーパスという形で定義して、それを体現するために、事業だったり組織だったりを変革していく一つの経営手法だと思っています。

ーーパーパス経営を取り入れている有名な会社はどこでしょうか?

菊地:有名な会社ですと、ソニー、富士通、サイバーエージェントなどは、パーパス経営としてとり上げられている会社ですね。

ーーサイバーエージェントはどのようなパーパス経営をやっているのでしょうか?

菊地:サイバーエージェントの例、これは、ハーバード・ビジネス・レビュー(2022年6月号)に載っています。パーパス経営の方法というよりは、「なぜこのタイミングでパーパスを定めたのか?」という事が書いてあります。特に他社のパーパスに「嘘くささ」を感じていた藤田さんがパーパスを定めた話は読みごたえがあります。

ーーソニーはどうはどうでしょうか?

菊地:パーパスの言葉の部分では、他社と比較しても、すごくよく出来ているなと思います。但し、どのくらいパーパス経営がうまくいっているのか、浸透しているのかというのは、全くわかりません。やはり、組織が大きいので、何かを立ち上げてやり遂げるには、ものすごく力がいるので、簡単にはうまくいかないのかなと思っています。

ーー浸透というところまで考えていくと、大企業の場合わかりにくいですよね。

菊地:そうですね。

ーーそういう意味では、中小企業の方が浸透しやすいのでしょうか?

菊地:組織が小さいので浸透させやすいです。ただ、まだまだ浸透させようと私を含めて色々な企業がチャレンジしているという段階ですね。

2019年にパーパス経営という言葉がビジネスラウンドテーブルで使われ、そこから日本でも力を入れるようになって、まだ2年、3年。これからです。

ーーパーパス経営導入のコンサルティングに関わるようになった理由をお聞かせください。

菊地:独立する時に、お金儲けだけはやめようと思っていたんです。社会のためになることをしようと思っていました。これまでプロボノやボランティア的にいろいろなNPOの支援などをしてきましたが、それだけでいいのかなというもやもや感がずっとありました。

10年以上社会の課題やそれに関わるアクションなどを多少なりともやってきた中で、パーパスという言葉に出会った瞬間、これが私が探し求めていたことだと思いました。

会社がお金儲けだけでなく、地球規模ですべてのステークホルダー、環境、すべてがよりよく持続可能になっていくように、自らの事業も変革していかなくてはいけない、組織もそれに合わせて変えていく、というパーパス経営は、まさに自分が注力すべきことだということだと気づいたことがきっかけでした。

ーーパーパス経営を導入するメリットとは?

菊地:導入をしようとしている会社の経営者の多くが「今までそれなりに経営してきた中で、色々と事業をやってきたが、一貫性がないために何屋だかわからなくなってきている」一方で社員から「うちの会社は結局どこを目指しているのか、どこに行こうとしているのか見えない」ということで相談をしてきます。

経営者自身もよく分かっていないことで不安ですし、社員も不安ですしというところで、改めて経営理念を作り直そうという流れになり、パーパス経営の導入を検討しはじめます。

今まで、ミッション、ビジョン、バリューという言葉を使ってきましたが、それなりの年数やってきた会社は、改めて見直そうということになります。

また、地球環境や社会課題に感度の高い経営者がパーパスという言葉に惹かれて作る場合もあります。パーパスを作ってそれに基づいて事業を行うので、経営としての一貫性を持てます。

一貫性を持って事業を行えるので、独自性が高まります。独自性が高まれば、事業では、競合から優位に立てたり、採用では、優位に人を集められたりします。

また、一体感というところでも、目指しているものが同じなので、社員の一体感が高まっていきます。そういう意味では、本当にメリットが沢山あると思います。

ーー一方で、課題はありますか?

菊地:課題は、やはり、方法論が確立していないことだと思います。パーパス経営が大事なのはわかるけれど、具体的にどうやってやったらいいのかということです。

経産省の伊藤レポートの中では、「社会のサステナビリティ(持続可能性)を高めながら、しっかり稼げる事業をやってください」ということが云われてます。

それが出来たら良いわけですが、その方法については確立していないのが現状です。

皆、手探りでやっていっています。

経営理念を立てるということは昔からありましたが、それを立てたからといって、うまくいく保証はありません。立ててこうやればうまくいくという画一的なものでもありません。これまでもこれからも課題として、そこは残り続けるものではあるかなと思っています。

なお、ミッション、ビジョン、バリューをパーパスに変えたからといって、大きな支障があったりとか、経営理念を作ったところで、会社として何か大きな問題が起こったり、そういうものではありません。

ただし、「単に作るだけ」のデメリットはあります。「結局きれいごと掲げてそれだけじゃないか」と社員が冷めた目で経営側を見るということですね。やりきらないことによって、ネガティブなことが返ってくる可能性はあるということです。

とはいえ、経営というのはそもそも、経営理念に基づいて経営をやりきるものです。やりきることにおいては、何も支障はありません。

ーーあとは、本当にやりきれるかどうかということですよね。

菊地:そうです。

ーー今後チャレンジしていきたいことはありますか?

菊地:実践型パーパス経営ラボ、というものがあるんですが、これをもっと広めたいと思います。何故なら、私一人でやっていても、パーパス経営のノウハウが蓄積されないですし、高まっていかないからです。

パーパス経営を実践する企業もそうですし、私のようなサポートするコンサルタントもどんどん増やしていきたいです。私どもは、ノウハウを全部丸出ししますという感じでやっています。

ラボを広めていく他に、経営学者の方などと一緒に研究をしたり、研究成果を発表したりとか、このあたりも出来たらいいなと思っています。

ーー現在パーパス経営のコンサルティングをされていますが、どのような方法でされていますか?

菊地:だいたい3ヶ月くらいかけて、まずパーパスを作るというプロセスを踏みます。

そして、パーパスに基づいて中長期の計画を立てます。例えば3年後にどういう課題を解決していたいか、そのためには、会社はどのくらいの規模になっている必要があるか、どういう事業パートナーが必要かといった中長期の計画を立てます。それに基づいて既存事業をどのように変革していったらよいか、新規事業にどんなものを作る必要があるかなどの事業面でのサポートをしていくのが一つ。

もう一つは、組織サポートです。パーパスに基づいてこんな人事制度に改変しましょう、採用や教育も新しいしくみを作っていきましょう、社内のコミュニケーションシステムを刷新しましょうといったことがそれにあたります。

今コンサルに入っている会社では、本社の移転プロジェクトが立ち上がっています。そこでは、いかにパーパスを体現しやすい本社にしていくか、例えばどこに移転するか、移転先でどんなレイアウトのオフィスにするかなども一緒に議論していきます。

ーーパーパスを作る時はどのようなサポートをされていますか?ファシリテーションとか

菊地:定例ミーティングのスケジュールは次の通りになります。

第一フェーズ(パーパスを作る)

事前の情報収集として、会社の歴史・課題、経営者の原体験を聞き、社会の課題・未来に実現したいことをヒアリングしていきます。

それを元に、どんな会社として未来を実現していきたいか、どういう存在意義を会社として発揮していきたいかという意味でパーパスを立てます。

次に「パーパスを実現するために核となる価値とは何か」というコアバリューを作り、幹部に共有したり、それに基づいた中長期のビジョンを立てたりします。

それに合わせた未来の、例えば組織図を描いたりします。最後に直近一年で何をやるかという計画を立てます。

毎週1時間から1.5時間の時間をとって、3ヶ月くらいで着地するという感じ。これでパーパスを作るという第一フェーズが着地するという感じですね。

第二フェーズ(パーパスを浸透させていく)

次に、それをどう浸透させていくかという第二フェーズに移ります。

年間のスケジュールを立てるまでが第一フェーズです。そこからの運用が第二フェーズになります。自分たちでやる場合もありますが、私たちが入って一緒に進めていっているのが大半です。

ーーラボでは、パーパス経営について、いろいろ情報を得ることができるのですね。

菊地:そうです。ラボでは、今お話したことが全部わかるようになっています。ただ、パーパスを作るにはコーチングの能力、ヒアリングしていく能力、インタビュースキル、最後に言葉を作るには言語化の能力が求められるので、情報を得ただけでは難しい面もあります。

ーーそれを考えていくと、菊地さんのようなプロの方にお願いしたり、ラボをうまく利用することがよいですね。

菊地:そうですね。パーパスの形もソニーのような「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」といったパターンもあれば、サイバーエージェントのような「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する + 補足文」という形もあります。どのような形が良いのか?プロやラボのメンバーに相談すると良いかと思います。

ちなみに、ソニーやサイバーエージェントのパーパス策定には私たちは一切関わっていませんので…あくまでも世のなかにある例のご紹介です。

ーーサイバーエージェントの例って、今まさにABEMAでやっていることですね。

菊地:まさにそうです。

サイバーエージェントのパーパスには「新しい未来のテレビABEMAを、いつでもどこでも繋がる社会インフラに」という補足文があります。

これを実現するために、100億円かけてでもワールドカップの放映権を獲りに行こうという決断になったのではないかと勝手に想像しています。

採算も大事ですが、我々が何を目指しているかということをしっかりと定義して、常に参照して、意思決定していけば、周囲の納得感はもちろん持てますし、企業としての一貫性もぶれずにやっていけるということになります。

ーー本日はお忙しい中、ありがとうございました。

実践型 パーパス経営ラボは「社会の持続可能性を高めるための経営手法=パーパス経営」をともに学び、実践していく集まりです。「笑世協創~みなが笑顔で暮らせる世の中を力を合わせて創造しよう~」というラボのパーパスに共感して頂ける方のご参加をお待ちしております。

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