地方銀行や、信用金庫などをはじめとした地域金融機関は、地域における金融インフラの中心的存在であり、地域に根差した金融サービスの提供を通じて地域経済の発展に貢献してきました。地域金融機関は地元の企業や住民にとって、なくてはならない存在と言えるでしょう。
しかし、社会を取り巻くさまざまな課題がある昨今、その地域金融機関は厳しい経営課題に直面しています。地域経済がなかなか活力を取り戻せていない状況の中、資金需要の低迷・競争の激化・超低金利の長期化にさらされており、収益力が削がれているのです。
地域金融縮小の原因
日本における地域金融機関の縮小には、いくつかの原因があります。その主な原因は、以下の通りです。
少子高齢化による人口減少・地域経済の縮小
少子高齢化による人口減少は、地域金融機関の顧客基盤を縮小させています。地域金融機関は、基本的に地元の中小企業や個人を主な顧客としています。しかし、少子高齢化により、このような顧客となる人々の母数の縮小などに伴い、地域経済の規模そのものが縮小しています。少子高齢化は近い未来に解決される見通しは立っておらず、今後も加速度的に進行していくと考えると、それに伴って地域金融機関のマーケットも縮小を余儀なくされています。
異業種参入による競争激化
近年は異業種の金融ビジネス参入も増加しています。新興のネットバンクは預貸金を堅調に拡大し加えて、決済等のフィンテック企業や、ネットバンク等が提供するプラットフォームを活用して一般企業がサービスに金融を組み込む「エンベデット・ファイナンス(組込型金融)」が増加傾向にあります。
これまで半ば中〜大規模銀行の寡占状態が続いていた金融業ですが、昨今はいよいよ担い手が多様化して競争が激化しています。このような新興勢力が地域金融のビジネスを侵食しているというのが現状です。
インターネット普及による金融サービスのオンライン化
インターネットが普及したことにより、金融サービスはオンラインで提供されるようになってきました。このため、地域金融機関は、窓口業務の減少に直面しています。
また、オンラインで提供される金融サービスは、基本的に低コストで提供されているため、地域金融機関は価格競争にも晒されるようになりました。特に新型コロナウィルスの流行したことを契機として、これまでなかなか普及率が上がりづらかった地方の高齢者でも、自宅からオンラインで金融機関を利用するという習慣が広がりを見せました。このような出来事も伴って、近年地域金融機関の窓口業務は縮小し、旧来的な金融サービスはますます苦境に立たされています。
金利収益の減少
日本銀行が長年主導してきた低金利環境が長期化していることを背景に貸出金利が低下する一方で、預金金利はゼロ%近傍で横這い推移しています。つまり、これまで地域金融機関の大きな収益源であった預貸利鞘が大幅に縮小しているのです。
このような変化に対応して、地域金融機関は貸出を積極化して貸出残高を大きく伸ばすなどの方向転換を行ってきたものの、近年は利鞘縮小によるマイナスを補いきれず、さまざまな地域金融において、金利収益は減少傾向が持続しています。
このような原因により、地域金融機関の多くは収益が減少し、経営が悪化しています。そのため、多くの地域金融機関が統廃合や経営破綻を余儀なくされているのです。
地域金融機関は今後どうなっていくか
これまで地域金融機関は、さまざまな逆風に立たされているという現状について確認してきました。次に、そのような環境変化の只中において地域金融機関は今後どのように働きかけを行っていくのでしょうか。
統合や業務提携の加速
収益や市場規模の縮小を受けて、足元の経営基盤を強化するために地域金融機関の統合や業務提携はますます進んでいくでしょう。
例えば、地域金融機関同士で経営統合などによる事業再編を進める動きが相次いでいます。2020年10月には福井銀行と福邦銀行が経営統合、また2022年4月には、青森銀行とみちのく銀行が持ち株会社「プロクレアホールディングス(プロクレアHD)」を設立。
さらに同年10月には愛知銀行と中京銀行が持ち株会社「あいちフィナンシャルグループ(あいちFG)」を設立し、2024年には合併を予定しています。また2022年11月には、地銀最大手のふくおかFGが、同じ福岡県内の福岡中央銀行を完全子会社化する(2023年10月予定)と発表しています。
また地域金融機関同士によるアライアンス(包括業務提携)も増加傾向にあります。その先駆けとなったのは、2015年10月に、千葉銀行、第四銀行(現在、第四北越銀行)、中国銀行の3行で発足した「TSUBASAアライアンス」で、TSUBASAアライアンスにはその後、伊予銀行、東邦銀行、北洋銀行が参加、2018年以降には、武蔵野銀行、滋賀銀行、琉球銀行、群馬銀行が加わり現在は10行の大所帯になりました。
2016年3月には千葉銀行と武蔵野銀行による「千葉・武蔵野アライアンス」、2019年7月には千葉銀行と横浜銀行による「千葉・横浜パートナーシップ」、2022年4月には静岡銀行と名古屋銀行による「静岡・名古屋アライアンス」がそれぞれ締結されるなどアライアンスの流れもますます進んでいます。
規模の経済が働かない資産規模1兆円以下の地域金融や、コア業務の純益が10億円未満の地域金融にとっては、単独での生き残りが困難となっており、店舗や人員のリストラを実施したうえで、規模の経済を得るための統合や業務提携という選択肢が有力です。政府や金融当局も再編を後押しする法律や制度を整えているので、今後も多くの地域金融機関が規模の経済を享受する統合や業務提携を進めていくことは間違い無いでしょう。
新たなビジネスモデルの模索
既存の金融業務だけでは収益の縮小が避けられないため、多くの地域金融機関は新たなビジネスモデルを模索しています。また、2021年の銀行法改正により、金融機関は、銀行業等高度化会社を活用し、さらに幅広い業務を営むことが可能となりました。
現在、各地域金融機関の事業多角化(コンサル、人材派遣、投資専門子会社、地域商社など)が進んでいます。
今まで銀行は、認可を受けることでフィンテック企業などのいわゆる銀行業高度化等会社(情報通信技術やその他の技術などを用いて銀行業の高度化が図れる会社)を子会社・兄弟会社にすることができました。
しかし、今回の本改正に伴い銀行業高度化等会社に地方創生に関わる会社(地域の活性化や産業の生産性の向上その他持続可能な社会の構築に貢献できる会社)が追加され、さらに認可を要することなく子会社化することが出来るようになりました。
このような規制緩和の流れを受けて、山形銀行による「やまがた協創パートナーズ」(投資事業)、山陰合同銀行による「ごうぎんエナジー」 (再生エネルギー関連事業)、中国銀行による「ちゅうぎんヒューマンイノベーションズ」(人材紹介事業)、関西みらいフィナンシャルグループによる「みらいリーナルパートナーズ」(コンサル事業)など、すでに馴染みのある多数の子会社設立が相次いでいます。
地域金融の縮小に備えて今から企業が出来ること
避けがたい未来として地域金融の縮小が懸念される中、企業に今のうちから出来ることにはどのようなものがあるでしょうか。一つ一つ見ていきます。
取引先金融機関の多角化
地方の中小企業のメインバンクはその地域の金融機関であることが多いですが、ここまで述べてきた地域金融の縮小に備える一つの方法として、取引先の金融機関を多角化していくことは必須といえそうです。
例えば万が一、取引先の金融機関が倒産してしまったり、経営再編による急な方針転換などが起こったりすると、それに伴って金融機関をめぐる状況も当然ネガティブな方向に向かっていくでしょう。
このような事態に備えて、取引する金融機関を事前に多角化しておけば、自社の資金繰りが急に厳しくなってしまうという事態は避けられるかもしれません。
地域金融機関とのコミュニケーション強化
ここまで説明してきたように、地域金融機関では経営再編や経営の多角化などの動きが進んでいるという現状があります。
これまで取引を続けてきた地域金融機関とのコミュニケーションをいままで以上に活発化することで、新たな資金繰りの手段や、地域金融機関の新しいビジネススキームとの連携の可能性を模索することができます。
資金繰りの面では、地域金融機関が統合や業務提携をすることによって、これまでアクセスすることができなかった規模の資金調達や、あるいは自社の地域外からの資金調達の可能性が生じることになります。
また、地域金融機関は経営の多角化のためにコンサルティング業、人材関連業、再生エネルギー関連事業などさまざまな業務に進出しつつあります。
そのような地域金融機関の新規事業と企業が思わぬシナジーを生む可能性があります。
例えば、人材獲得や事業継承に悩む企業が地域金融機関の人材事業を利用する、あるいは地域金融機関のコンサルティングソリューションを利用して経営課題の解決を図るなど、さまざまな可能性が考えられます。
これまで関係を持ってきた地域金融機関とのコミュニケーションを密にすることで、地域金融機関の経営再編や新規事業の情報をいちはやくキャッチして、自社と地域金融機関の新たな可能性を探ることは必須であると言えるでしょう。
まとめ
今回の記事では、現在縮小傾向にある地域金融について、縮小傾向にある原因と今後の地域金融に関する予測をご紹介してきました。一長足に解決されることのない社会問題などと関わりながら地域金融の弱体化はますます進んでいます。
取引先や自社の事業が地方金融に該当する場合は今後の見通しなども含めて、今のうちから企業としての対応策を検討しておくのも良いかもしれません。