米欧金融リスクに対して備えるべきこととは?

米欧金融リスクに対して備えるべきこととは?

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昨今、シリコンバレーバンク(SVB)やファースト・リパブリック銀行といった金融機関が破綻し、その他の地銀や金融システム全体への影響に対して懸念が高まってきています。

このような出来事は、これから起こる金融危機の前触れなのでしょうか?

今回の記事では、金融危機が本格的に起こった場合、企業に波及する諸問題についてご紹介しつつ、金融危機に対して今から企業が準備すべき事柄を整理していきます。

2023年は金融危機に突入する?

アメリカを拠点とするシリコンバレーバンクやファースト・リパブリック銀行が破綻し、次の金融危機が始まるのではないかという懸念が広がっています。金融危機は企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

金融危機を感じさせる昨今の動向

全米16位の資産規模で新興企業向けの融資を手がけてきたシリコンバレー銀行が、2023年3月10日に破綻しました。金融史上2番目の規模の米銀破綻であることから、波紋が広がっています。また翌々日の12日には、全米29位のシグネチャー銀行も破綻したことから、にわかに金融危機への緊張感が高まってきました。

米連邦準備制度理事会(FRB)が進めてきた急激な利上げによって、米国債などを保有する債権の価値が下落し、含み損が発生したことなどが呼び水となったと分析されています。

このような負の連鎖を早期に打ち切るべく、異例の措置としてアメリカ財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)は、両行の預金を全額保護することを発表しましたが、影響は欧州にも波及しています。

富裕層向け運用を強みとする世界有数の金融機関クレディ・スイスも、米投資会社との取引で巨大な損失を出しており、経営不振に陥り、破綻が懸念されています。

スイスの中央銀行から最大約7兆円を借り入れるなどして、信用回復に努めています。

日本の金融機関への影響は現時点では限定的だとされる一方、地方銀行は米国債などに投資しているケースが多いため、含み損が増えています。

金融不安の背景

シリコンバレーバンクとファースト・リパブリック銀行のアメリカの2行が破綻した主な原因は、金利が急激に上がったことです。アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利の上げ幅を2022年3月に0.25%、5月に0.5%、6月に0.75%とし、23年2月には政策金利を4.50~4.75%まで引き上げました。金利を上げるとお金の動きが鈍化するため、物価の下落につながる効果があります。アメリカでは激しい物価上昇が起こっていたため、FRBは物価を下げることを目論んで金利を上げていました。

しかしながら、金利が上がることによる副作用もあります。そのひとつが債券の価格が下がることです。債券は満期まで持っていると一定の金利がつきますが、持っている途中に世の中の金利が上がると、持っていたいと思う人が少なくなるため、その時点での価格が下がります。

破綻したアメリカの2行は、米国債などの債券をたくさん買っていました。預金などで得た資金を貸し出しに回すのではなく、手っ取り早く債券を運用することで利益を生み出そうとしていたのです。

そこで金利上昇の副作用により、債券の価格が購入時よりも下落、債権を多く保有する銀行は多額の含み損を抱えることになります。銀行に多額の含み損があることを察知した顧客は「銀行が多額の含み損を抱えていて自分の預金が危ない」と思い、預金を引き出そうとします。そうした顧客が増え、金融機関は資金不足に陥り、経営が行き詰まってしまったのです。

金融危機が起きた時の企業への影響

金融危機が起きると、企業にはどのような影響があるのでしょうか。

資金調達が困難になる

金融危機が起こると、金融機関がリスクを回避するために融資を減額することがほとんどです。その結果、特に信用レベルが大企業ほど高くない中小企業ほど資金調達が困難になり、資金繰りに問題が生じてくることがあります。

また通常の資金繰りに問題がなくとも事業拡大や投資などが抑えられてしまい、事業を大きくスケールさせるのが難しくなってしまいます。企業活動が停滞してしまうことは、回り回って経済にとってもかなりマイナスな影響を及ぼしてしまいます。

経営不振の企業が増える

リーマンショックなどを振り返ってみても明らかなように、金融危機が起こると、景気そのものが低迷してしまうことが多く、それに伴って一般的な消費者の購買も冷え込み、多くの企業が経営不振に陥ることが非常に多いです。

企業の経営がこのように不安定になると、それに伴ってさまざまな悪影響が生まれます。例えば、経営悪化により、従業員の採用を制限する企業が増えるので、その間労働市場も不安定化します。

近年の例でいくと、2021年から2022年にかけてアメリカのIT企業では、レイオフや採用凍結が相次ぎました。経営不振を防止したり、実際に陥ってしまった企業は、安定化のためにこうした暫定的かつ保守的な動きに終始するだけになってしまいます。

資産価値が減る

金融危機が起きると不動産を代表的なものとして、そのほか設備、株式といったいわゆる資産の価値が暴落するということが起こる場合もあります。

個人が持っている資産に関してももちろんですが、企業が持っている巨大な資産に関しても大きな価値変動が起きてしまうかもしれません。その場合、評価損をしたり、これまで資産として大きな価値をおいていたものが売却困難になり、資金化されないといった問題に直面してしまうかもしれません。

このような問題は、最初に述べたような資金繰りの悪化とも関連してきてしまい、企業経営がさらなる悪循環に陥ってしまうリスクが高まります。

金融危機に備えて今から企業が出来ること

では次に、金融危機に備えて企業が行える対策をいくつかご紹介していきます。

資金繰りを再度見直し、不安要素を取り除いておく

これまで見てきたように米欧金融リスクが発生した場合、いずれの企業も資金繰りが悪化する可能性が大いにあります。そのため、資金繰りに関して事前にチェックを行い、不安要素を取り除いておくことが重要です。

日常的に行う財務管理の精度を向上させ、バランスシートを健全に保ちましょう。現在は、少しでも金融危機の影を感じる状態ですので、大規模な借入や投資をしばらく回避しておくのも将来的に得策となるかもしれません。資金繰りにまつわるリスクを出来るだけ軽減させておくことは、深刻な金融危機が起きなかったとしても企業運営にはプラスに働くでしょう。

また金融危機のような大きなリスクが近づいている場合は、キャッシュの備蓄を行っておくのも良いでしょう。十分な量のキャッシュが確保されていることで、資金繰りの管理を行う際にも不安が軽減し、不測の事態への柔軟な対応も可能になります。

収益源を分散しておく

金融危機を目前にした状況かどうかにかかわらず、企業の収益源を多事業に分散させておくのは企業運営において非常に重要となってくるでしょう。

多事業展開を行って、なおかつそれぞれが収益源になることで企業運営が健全になるだけでなく、新規事業創造や事業間の送客といった、副次的なプラスの効果をもたらします。

多事業展開を行うということは特定の市場に依存しないということになりますので、金融危機などの未曾有の事態に直面した時に経済的な面におけるリスク回避となります。

コスト削減

金融危機の発生前に経費の節約や効率化を図ることで、収益の変動による影響を緩和できます。無駄なコストを削減することで、経済的なリスクを軽減しましょう。

無駄な支出の削減、 人件費の見直し、仕入れ先の最適化など、あらゆる側面からコストの効率化を図ることが重要です。コストを徹底的に効率化することで、キャッシュの確保や、急な資金繰りの悪化にも対応することができるようになります。

コスト削減は言うまでもなく企業経営の基本ですが、金融危機の可能性が生じている今だからこそあらためて徹底的に取り組みましょう。

リスクマネジメントを再構築する

金融危機が実際に発生した際には、自社の経営状況やステークホルダーとの関係性を適切に理解して、迅速に対応出来るようにしておくことが大切です。

中小レベルの企業でこうした緊急事態に関してのレギュレーションが十分整備されているケースは少ないかもしれません。しかし、現在のように多少なりとも金融危機の片鱗が見える段階で、なおかつ自社の経営状況や取引先との関係において不安がある場合は早めに対処法の検討を始めて損はないでしょう。

もし人件費に余裕がある会社は、リスクマネジメントやキャッシュフローの専門家を社内人材として採用したり、外部の専門家に委託をする準備をしておくのも良いかもしれません。

政府や規制当局の動向について十分にリサーチをする

金融危機が起きると、政府や規制当局などをはじめとした公的期間がさまざまな経済対策を講じます。上述したクレディ・スイスへの融資などに見てとれるように、国際的な信用や不安感に関わる大企業に対しては個別の対応が検討されることも少なくありません。

また、もちろん中小規模の企業に対しても臨時での補助金・助成金を準備したりといった暫定的な措置がとられることが常です。

またそのほかにも、特別措置として新規に規制などが用意される場合もあるので、金融危機前後は政府の動きに関して細心の注意が必要です。

実際に金融不安が起きてしまった場合に備えて、今の段階から情報収集を念入りに行っておくと良いでしょう。

まとめ

今回の記事では、現在アメリカやヨーロッパを中心に懸念が広がっている金融危機について、概要や起きた場合企業が被る影響、金融危機に備えて出来ることなどをご紹介してきました。

日本への影響は今のところ限定的だとされていますが、地方銀行などをはじめとして米債権に投資している国内の金融機関も少なくないことから、多少の影響があると想定しておいて良いでしょう。本記事を参考に、金融危機についての対処法などをぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

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