「フリーランス」という言葉、今や誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。これは、個人事業主としてクライアントと自由に契約し、仕事に応じた働き方をするライフスタイルのことです。会社勤めとは異なり、フリーランスは自分自身で仕事のスケジュールを決定し、好きな時間に働くことができます。その自由さは、多くの人に魅力的に映るでしょう。
一般的に、フリーランスは会社との雇用契約ではなく、プロジェクトごとの単発契約を通じて仕事をします。インターネット上には、フリーランスの魅力的な側面を紹介する記事が溢れています。これらを読んだ人々が、「自分もフリーランスで働きたい」と感じるのは自然なことです。
しかし、その一方で、フリーランスの生活が必ずしも簡単なわけではありません。今回は、フリーランスとして働くことの「大変な部分」に焦点を当て、その実態に迫りたいと思います。
フリーランスのメリットとは?
フリーランスとして働く際の大変な点を紹介する前に、まずはその魅力的な側面を探ってみましょう。多くの人がこれらのメリットを理解し、それを踏まえた上でフリーランスを選んでいます。具体的にどのような利点があるのかを見ていきましょう。
自由な勤務時間:
フリーランスは会社勤めとは異なり、固定された勤務時間を持ちません。会社員であれば決まった出勤時間や勤務時間に従う必要がありますが、フリーランスではそうした制約がありません。
たとえば、昼過ぎまで寝てから仕事を始めることも、昼間は自由に過ごして夜に仕事をすることも可能です。時間に縛られたくない人には、フリーランスが最適な選択肢かもしれません。
収入の可能性:
会社員の場合、給料はある程度固定されています。しかし、フリーランスならば自分のスキルを直接市場に売り込むことができます。
例えば、クライアントからの提示金額に納得がいかなければ、価格交渉が可能です。また、受ける仕事の数を自分で調整することで、収入を増やすことができます。価格交渉や仕事量のコントロールにより、自分の収入をより直接的に管理することができるのです。
人間関係によるストレスの軽減:
会社勤めでは、上司や同僚、先輩など、多くの人との日々のコミュニケーションが必要です。これが楽しいと感じる人もいますが、一方で、密な人間関係がストレスの原因になることもあります。
フリーランスの場合、これらの「余計な」人間関係を築く必要が少なくなります。もちろん、フリーランスであっても人との交流は必要ですが、会社員のように常に多くの人に気を配る必要がなくなるため、ストレスが軽減されると多くのフリーランスからの意見があります。
定年の制約なし:
多くの会社には定年制度があり、定められた年齢に達すると退職しなければなりません。退職後に嘱託社員として働くこともありますが、収入は大きく減少します。老後資金のために再就職を選ぶ人が多く、しかし定年後の給与は大幅に減少することが一般的です。
フリーランスであれば、このような定年の制約から解放されます。年齢に関わらず、自分のペースで働き続けることが可能です。老後資金の確保という観点からも、フリーランスは魅力的な選択肢となり得ます。
好きな場所での勤務:
通常の会社勤めでは、勤務場所は社内、または特定のロケーションに限られます。しかし、フリーランスならば勤務場所を自由に選べます。例えば、WEBライターなら自宅のみならず、カフェや他の好きな場所で仕事をすることも可能です。この柔軟性は、フリーランスならではの大きなメリットと言えます。
デメリット:フリーランスの難しさを理解する
フリーランスという働き方は、一見、多くの利点があるように見えますが、実際には多くの困難も伴います。一部の人にとっては、フリーランスのデメリットがメリットを上回ることもあります。ここでは、フリーランス特有の大変な面について詳しく見ていきましょう。
安定とは皆無の生活になる:
安定という概念は、フリーランスにとってはほとんど存在しないものです。会社員であれば、仕事と収入は安定しています。そのため、職に関する不安を感じることは少ないでしょう。しかし、フリーランスにはこの安定がありません。多くは単発契約であり、一つの仕事が終わると次の仕事が保証されているわけではないのです。
フリーランスは、働いた分だけが収入になります。これは一見メリットに思えますが、実際には「働かなければ収入がない」ということを意味します。たとえ働きたくても、仕事が見つからないこともあります。
特に新型コロナウイルスの流行以降は、プロジェクトが中止になることも多く、収入が大幅に減少するフリーランスも少なくありません。安定していたと思われる仕事も、予期せぬ中断が生じる可能性があります。
現在仕事に困っていないとしても、いつ仕事がなくなるかは予測できません。このような理由から、フリーランスの生活は「安定」とは言い難いのです。
手当てが少ない:
また、フリーランスには手当てが少ないという問題もあります。会社員の場合、怪我や病気で働けなくなった際には傷病手当が支給されますし、女性は妊娠や出産で働けない場合に産休手当てがありますが、フリーランスにはこれらの保障がありません。
フリーランス向けの手当てが全くないわけではありませんが、会社員と比較すると限られています。そのため、フリーランスは特に怪我や病気に対して注意を払う必要があるのです。
年金額の違い:
会社員は厚生年金、フリーランスは国民年金の対象となります。会社勤めの経験がない場合、年金受給時の金額に大きな違いが生じます。
令和5年度の国民年金の満額は年間795,000円、月額にすると約66,250円です。これは、快適な生活を送るには不十分な額です。
厚生年金の受給額は、納付月数と収入に応じて変わります。令和5年度の平均額は月約15万円とされています。男女で受給額が異なり、男性の方が多い傾向にあります。
多くの若者は年金額に深く考えず、「払いたくない」と感じることも多いです。会社員は給料から自動的に天引きされますが、国民年金は自分で支払い手続きをする必要があります。そのため、支払いが滞る人も少なくありません。これが将来受け取る年金の金額の減額または受け取り開始時期の遅延に繋がることがあります。
社会的信用の問題:
フリーランスは、いくら収入が高くても一般的に社会的信用が低い傾向にあります。最近は少し状況が改善されているものの、高収入の漫画家でも住宅ローンの審査に落ちるケースがあります。一方で、収入がそれほど高くない会社員は問題なく審査を通過することがあります。
フリーランスは、現在の収入が安定していたとしても将来の不確実性があります。たとえば、住宅ローンを受けた後に収入が途絶えるリスクも否定できません。銀行はリスクを考慮し、全ての可能性を検討して審査を行います。その結果、収入が少なくても「会社」という安定を持つサラリーマンの方が信用されることが多いです。
社会的信用は、長期間会社勤めをする人にはより高くなります。このため、ローンの審査にも有利です。反対に、フリーランスは給与天引きがほとんどなく収入が高い場合が多いですが、長くフリーランスで働いていても社会的信用を高めるのは難しいという問題があります。
確定申告の自己管理:
会社員の場合、給料から毎月税金が天引きされ、年末調整も会社が行ってくれるため、個人が面倒な事務作業をする必要はありません。
しかし、フリーランスは異なります。経費の支払い、売上の管理、確定申告のための帳簿作成など、すべてを自分で行う必要があります。税理士に委ねることも可能ですが、これには費用がかかるため、収入がそれほど大きくないフリーランスは多くが自分でこれらの作業を行っています。
このため、毎年確定申告の時期には、多くのフリーランスが事務作業に追われます。普段から定期的に管理している人でも、確認作業で大変な思いをすることがあり、確定申告の時期は作業の負担が仕事にも影響を与えることが少なくありません。
フリーランスの不規則な生活スタイル:
フリーランスは、会社員のように固定された就業時間がないため、生活が不規則になりがちです。時間管理が得意な人なら問題ないかもしれませんが、仕事と私生活の境界を設けずに不規則な生活を送る人も多いです。
特に収入に不安を感じている人は、過剰に仕事を引き受けて、深夜まで作業を続けることがあります。フリーランスの中には、ワーカホリックになる傾向が強いと言われます。自由に仕事を選べる反面、仕事をしていない時に不安を感じやすく、結果として健康や趣味よりも仕事を優先し、仕事中心の生活を送ることがあります。
理想的には、日々のスケジュールをしっかりと計画して行動することです。しかし、仕事の過剰な詰め込みなどにより、理想から離れた生活になることも少なくありません。
フリーランスのコミュニケーションの希薄化:
フリーランスは仕事のやり取りを主にネット上で行うことが多く、他人と直接会う機会は少なくなります。特にWEBライターのように、パソコンさえあれば仕事ができる職種では、仕事の探索が容易です。
クラウドソーシングを利用すれば様々な仕事を見つけることができますが、その結果、オンラインでのやり取りが主流となり、対人コミュニケーションは希薄になりがちです。
直接的なコミュニケーションを避けることは一時的なメリットとなることもありますが、長期的にはデメリットとなる可能性が高いです。場合によっては1日中誰とも話さないことも珍しくないでしょう。
会社に勤めていると、仕事終わりの飲み会やランチなど、同僚との交流の機会が自然と生まれます。しかし、フリーランスではこのような機会が大幅に減少します。人とコミュニケーションを取ることを避けたい人にはメリットかもしれませんが、そうでない人にとっては孤独感を感じるデメリットとなる場合もあります。日常業務に没頭しているときは気にならないかもしれませんが、ふとした瞬間に「寂しい」と感じるようになることもあります。
フリーランスと保育園入園の難しさ:
多くの家庭では、仕事をするために子供を保育園に預ける必要があります。特に、仕事に復帰するためには保育園への入園が重要です。しかし、フリーランスの場合、子供の保育園入園が難しい状況に直面することがあります。
主な理由は、フリーランスは在宅での仕事が可能であるため、保育園に子供を預ける必要がないと見なされがちだからです。外出が必要な会社勤めの人の方が入園の優先度が高くなる傾向があります。
待機児童問題の深刻化とともに、在宅で仕事ができるからといって保育園に預ける必要がないわけではありません。実際には、家にいると子供の世話に追われ、仕事に専念できないケースも多いです。
フリーランスは自由な働き方をしているため、保育園に預ける必要がないという誤った認識が根強いです。働き方改革の進展により状況は若干改善されていますが、「在宅で仕事ができるから保育園に預けなくてもよい」と考える人は依然として多いと言えます。
フリーランスのスキルアップの難しさ:
一般に、フリーランスは時間の自由があるため、スキルアップが容易だと考えられがちです。しかし、実際には会社勤めの人の方がスキルアップしやすい環境にあることが多いです。
その理由は、会社勤めの人は仕事と自己研鑽の時間を明確に分けることができるからです。彼らは勤務時間後に自分の時間を確保し、学習に充てることが可能です。一方、フリーランスはスケジュール管理が自己責任となり、仕事に忙殺されがちで、自己研鑽のための時間を確保するのが難しくなります。
フリーランスになる前にスキルアップを考えている人は、まずはスキルを磨いてから独立するという方法を検討すると良いでしょう。特に、技術の進歩が激しいIT業界などでは、スキルアップを先延ばしにすると思わぬ問題に直面するリスクもあります。
フリーランスのスキルアップ方法について詳しくはこちらから→フリーランスは成長できるの?スキルアップする方法を徹底解説!(フリーランスになって後悔しない成功方法とは?)
フリーランス特有の不安を克服する方法
フリーランスという働き方には多くの不安要素が伴いますが、これらの不安を軽減することで得られるメリットも大きいです。次に、フリーランス特有の不安を解消するために考慮すべきポイントを紹介します。
フリーランスとしての覚悟とリスクの認識
フリーランスになる際には、仕事がなくなる可能性への覚悟が必要です。近年、働き方改革によりフリーランスのメリットが強調され、その魅力的な側面だけを見て独立する人が増えています。
フリーランスとして働く人の数は確かに増加しており、これはフリーランスの働き方への需要の高まりを示しています。しかし、良い点だけに目が行ってしまい、「想定していたのと違う」と感じる人も少なくありません。
中には、「会社員のままでいれば良かった」と後悔する人もいます。後悔しないためには、会社員時代の2倍の収入を目標に設定することも一つの方法です。しかし、2倍の収入を得るのは簡単なことではなく、それが難しいと感じるならフリーランスを選ばないという選択も重要です。
フリーランスとして働くことには魅力があります。自由な時間に仕事をすることはストレスを感じにくいかもしれません。しかしながら、自由だけがメリットではありません。定められた就業時間に沿って働くことで、「仕事をしている」という実感が生まれることも重要な点です。
フリーランスとしての生活費の準備
フリーランスとしてのキャリアを始める前に、自身の貯蓄状況を把握しておくことが重要です。フリーランスになったとしても、すぐに高収入を得られるわけではありません。初期段階では地道な努力が必要となります。
理想は、すぐに高単価の仕事を手がけることですが、クライアントは実績のない新参者に大きな仕事を任せることは少ないです。高単価の仕事を依頼するなら、確かな実績を持つ人の方が信頼できるためです。
そのため、実績のない場合は、低単価の仕事から始め、徐々に自分の価値を高めていく必要があります。実績作りのために、当初は低単価の仕事を受け入れることも大切です。
特にクラウドソーシングでは、高単価と低単価の仕事が混在しています。実績がない場合、クラウドソーシングを利用して実績を積み、徐々に営業範囲を広げる人も多いです。このような背景から、フリーランスに転身する際は、少なくとも数ヶ月間、場合によっては半年以上の無収入に耐えられるだけの財政的準備をしておくことが不可欠です。
フリーランス向け保険への加入
最近では、フリーランス専用の保険商品を提供する会社が増えています。例えば、納期遅延や情報漏洩による損害賠償が発生した場合、大きな金額を支払う必要が生じることがあります。トラブルは予期せぬときに発生するものなので、フリーランスとして働くなら、これらのリスクに備えて専用の保険に加入することを考慮するのが賢明です。
加えて、就業不能保険や所得補償保険への加入も重要です。会社員の場合は、怪我や病気で仕事ができなくなった際には保険が適用されますが、フリーランスではそうした時の収入が保証されません。就業不能保険や所得補償保険は、傷病手当の対象外となるフリーランスにとって有益な選択肢です。
ただし、うつ病や統合失調症などの精神的な疾患で保険金が支払われない場合がある点に注意が必要です。フリーランスが加入を検討する保険については、保険金が支払われる条件や支払われない場合の条件をきちんと確認することが重要です。
多様なクライアントネットワークの構築
単一の会社との安定した仕事関係は理想的ですが、その会社から仕事が終了すると大きな問題に直面する可能性があります。仕事が途絶えたときに慌てて新しいクライアントを探すと、効果的な結果を得るのが難しいことが多いです。このような状況では、やむを得ず低単価の仕事を受けざるを得ないこともあります。
しかし、複数のクライアントと定期的に仕事をすることで、リスクを最小限に抑えることが可能です。仕事をしながら新たなクライアントを見つけることもできます。全く仕事がない状態では冷静な判断が難しくなるため、複数のクライアントとの関係を築くことは非常に重要です。
実際に、一つのクライアントに依存していたために事業が破綻し、フリーランスから会社員に戻ることを余儀なくされた人も多いのです。
有名な人物との比較を避ける
漫画家、小説家、デザイナーなど、多くの業界には著名な人物が存在します。これらの有名人に憧れてフリーランスを目指す人もいるでしょう。しかし、広く知られるような有名人になることは、非常に限られた数の人にしか叶わない現実があります。
ほとんどのフリーランスは地道に仕事をこなしています。有名な人と同じになれなかったからと失望することはありますが、そもそも自分をそうした著名人と比較すること自体が不適切です。フリーランスになる際には、自分がなぜその道を選んだのか、その理由に焦点を当てることが大切です。そして、その理由に基づいた一貫した仕事を目指すことが重要です。
フリーランスの決断:メリットとリスクを総合的に考慮する
フリーランスには、メリットとデメリットの両面が存在します。個々の状況によって適した働き方は異なるため、フリーランスを選択すること自体が間違っているわけではありません。しかし、メリットだけに目を向けてフリーランスを目指すと、理想と現実のギャップに圧倒されるリスクがあります。
「失敗は成功のもと」と言いますが、仕事での失敗は生活に直接影響し、家庭を持つ人にとっては家族にも負担をかける可能性があります。フリーランスを選ぶ際には、ある程度の覚悟が必要です。元の会社を辞めることの損失を考慮に入れ、フリーランスへの転身を慎重に検討することが重要です。
家庭を持つ人の場合、フリーランスへの転身は自分だけの決断でなく、パートナーと共に相談することが欠かせません。突然の独断でフリーランスに転職すると、場合によっては家庭内の問題に発展するリスクがあります。特に家計を支える主要な収入者の場合は、パートナーとの十分な相談を行い、共に決定することが望ましいです。