人材不足が進む中、多くの企業が注目しているのは既存人材の高度人材化です。自社にはないノウハウを持った人材獲得の手段は雇用以外にも、教育や研修を充実させることが主な手段として選ばれています。
ただ、既存人材である正社員の教育を行うとなると、外部の研修カリキュラムを積極的に採用することとなるため、費用面での負担が大きくなります。そんな外部研修コストを小さくするのに役立つのが、外部研修に適用可能な各種助成金制度です。
今回は、正社員の外部研修に利用可能な助成金制度について、適用要件などに触れながらご紹介します。
助成金制度の目的
そもそも助成金制度が制定された目的としては、以下の2つの理由が挙げられます。
労働人口を増やして経済成長を促すため
1つは労働人口の増加と、それに起因する経済成長を促すためです。日本は少子高齢化の影響により、新たに働ける若手人材の確保が困難になっていることから、フレッシュな人手を集めるのに多くの企業が苦労しています。
また、熟練の労働者も定年を迎えつつあることで、高度なスキルを持った人材の現場離れも進んでいます。特に、特定の高度人材に属人化した業務プロセスが定着している中小企業においては、企業の存続に関わる深刻な問題として取り上げられています。
助成金を活用することで人材育成を促せば、少数精鋭での業務遂行能力を促せるだけでなく、就業機会を増やし、労働力となれる人材の増加につながります。
労働人口が増えれば増えるほど、一人当たりの経済力と生産性が向上し、日本国内の経済成長も促進されるというわけです。
企業の業務効率化と生産性向上を促すため
厚生労働省が担当している助成金制度各種は、企業の業務効率化、及び生産性向上を手助けするという意味合いも強いと言えます。
そもそも企業が深刻な人材不足に陥っている大きな理由として、IT時代に通用し得る人材育成ができていない、あるいはIT環境の構築が進んでいないことが挙げられます。
従来では半日かけて実行していた業務も、システム導入を進めたり、エンジニアリングスキルのある人材を確保したりするだけで、数十分で実施することも可能となっています。
必要以上に人件費を圧迫しない業務体制を整備できれば、企業の成長と安定性の確保を促せます。
外部研修の実施で受け取ることのできる助成金制度
それでは、外部研修の実施によって受け取ることのできる助成金には、どのような種類があるのでしょうか。外部研修に活用できる助成金には、以下の2つが挙げられます。
人材開発支援助成金
研修の実施と最も密接に関わっている助成金制度は、人材開発支援助成金です。この制度はその名の通り、人材開発の支援を目的とした助成金を給付するもので、体系的かつ高度な研修を実施しながら、行政から支援金を受け取れます。
人材開発には研修費用が発生するだけでなく、研修をさせている間の労働力や損失を補填しなければなりません。助成金制度の活用によって、この分の穴埋めを実現します。
また、人材開発支援助成金には、主に8つの特定訓練コースが存在します。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
特定訓練コース
特定訓練コースは、雇用する正社員に対して、厚労大臣の認可を受けたOJTつき訓練や、若年層への訓練、労働生産性向上につながる訓練などを行った際に適用される助成金コースです。
人材開発支援助成金を申請する場合には、多くのケースに当てはまるコースと言えます。
一般訓練コース
一般訓練コースは、雇用する正社員に対して専門的な技能を訓練を通じて身に付けさせる際に適用可能な助成金です。特定訓練コースに該当しない、20時間以上の訓練が発生した際、内容に応じた助成金を支援してもらえます。
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースは、有給教育訓練休暇等制度を導入し、労働者が当休暇制度を利用した際に適用されます。休暇中の訓練内容に応じた助成金が支払われます。
特別育成訓練コース
特別育成訓練コースは、有期契約労働者の人材育成のために用意されているコースです。正社員向けの訓練コースではありませんが、非正規雇用からのキャリアアップを促す際に活用可能です。
建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースは、建設訓練に関する研修が行われる際に申請可能な制度です。建設業の労働人口減少も深刻化しているため、活用機会の多い制度と言えます。
建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースは、より技能実習に特化したコースとなっています。安全衛生法に基づいた教習や技能講習を通じて、高度なスキルを有した人材育成を推進します。
障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースは、障害者の職業能力を開発するための訓練施設や、訓練運営のための費用を補填する助成金制度です。多様な人材活用を推進したい場合に申請されるケースがあります。
人への投資促進コース
2022年より新たに始まったのが、人への投資促進コースです。新しいスキルセットを有した人材確保につながる助成金制度で、国民の声をもとに生まれた制度です。詳しい内容については後述します。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、人材開発支援助成金とは別に用意されている助成金制度です。非正規雇用者の正社員化や、処遇改善に向けた取り組みをサポートするために使用されています。
非正規雇用者の訓練や正社員化に向けた助成金であるため、正社員向けの制度として用いられるケースは少ないと言えます。ただ、ポイントとなるのは人材開発支援助成金と併用ができる点です。
非正規雇用者の正社員化に至るまでの研修や訓練をキャリアアップ助成金で、正社員化した後は人材開発支援助成金で賄うことにより、人材の包括的な育成を手厚いサポートとともに実現可能です。
若い世代の定着率を高めたり、自社のニーズに特化した人材育成を推進したりするのに最適な制度と言えるでしょう。
人材開発支援助成金の仕組み
人材開発支援助成金の仕組みについて、どのように制度を活用すべきかを含めながら、もう少し詳しく見ていきましょう。
外部研修で助成金を得るための方法
人材開発支援助成金は、基本的に各コースに応じた訓練を実施することによって、助成金を受け取ることのできる制度です。
例えば「生産性向上につながる訓練を10時間以上実施する」という条件に当てはまる外部研修を実施する場合、特定訓練コースの助成金制度に申請ができます。
上記特定訓練コースの要件に当てはまらない場合でも、20時間以上の訓練を実施すれば、一般訓練コースに申請することができます。
外部・内部研修を問わず、社員の能力向上や、会社の生産性改善につながる訓練を実施すれば、いずれかのコースで助成金を受け取ることが可能です。
助成金支給額について
人材開発支援助成金の支給額については、それぞれのコースで詳細な金額は異なります。助成金の種類は訓練中の賃金を補助する賃金助成、研修の実施にかかった費用などを助成する経費助成、施策の実施にかかった費用を助成する実施助成が適用されます。
賃金助成は時給換算で支払われ、毎時800円前後の支払いが、経費助成は経費総額の40%前後が、そして実施助成についても時給換算で発生し、毎時700円前後が支払われることとなります。
詳細な支給金額については、厚生労働省のサイトから最新情報を取得しましょう。
参考:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
2022年から始まった「人への投資促進コース」について
そして人材開発支援助成金制度では、新たな8つ目の施策として、人への投資促進コースが誕生しました。この制度は民間におけるデジタル人材育成への強い要望に応える形で誕生した助成金制度で、企業のIT導入や、デジタルトランスフォーメーション(DX)に活躍する人材の獲得をサポートします。
IT投資の最大の課題となっているのが、コスト面での負担増加です。IT導入はとにかく初期費用がかかるため、何かと一歩目を踏み出すのが困難な分野でした。
このような背景を踏まえ、人への投資促進コースでは、賃金助成額が最大で、960円、経費助成額に至っては75%と、通常の訓練コースよりも遥かに条件に優れた助成制度を実現しています。
研修への参加はもちろん、資格取得のための助成にも対応しているため、多くの人材のIT教育を一気に進められるきっかけとなるでしょう。
詳細については、以下の公式リーフレットから確認ができます。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000923165.pdf
助成金制度の活用事例
助成金制度の活用事例は増えつつあり、多くの企業が手厚いサポートを受けている様子が伺えます。
とある電気工事業者
とある電気工事業者においては、教育訓練センターにおける高度な専門技能取得のため、外部で研修を実施した際に特定訓練コースを申請し、補助を受けています。
資格取得に向けた技能研修における受講料の6割を補助金から捻出し、賃金助成を1時間当たり960円受けたことで、1人あたりの補助額は38,800円に達しています。
参考:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000213244.pdf p.5
福祉事業を営む中小企業
福祉業に従事する中小企業においては、介護職員の定着率改善に向けた、スキルアップ訓練の実現に助成金を活用しています。
一般訓練コースの助成金制度を活用し、外部訓練の際に発生した受講料の45%を補助金対象、1時間当たり480円の助成金を受け取れるようになり、一人当たり65,500円もの補助金獲得を実現しています。
参考:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000213244.pdf p.8
まとめ
人材不足が深刻化する中、優れた人材確保のためには研修の実施が不可欠となっています。厚生労働省が提供する助成金制度は非常に充実しており、導入企業も多いことから、積極的に利用して損のない仕組みと言えるでしょう。