中国の覇権主義

中国の覇権主義: 今後10年の軍事・経済傾向と日本企業への影響

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近年、ますます中国の経済力、技術力が向上し、貿易大国としての経済的な影響力も強まっています。その他にも、金融・軍事的な観点での覇権的な行動が見受けられ、アメリカをはじめとする諸外国は懸念を高めています。こうした中国の覇権主義的な路線は、どのように変化するでしょうか?また、日本にはどのような影響があるのかも解説していきます。

中国の覇権主義とは

中国は近年、軍事と経済の両面で覇権主義的な行動を強めています。

軍事面では、核兵器の近代化、各種弾道・巡航ミサイルや海空軍力の急速な近代化・増強、宇宙やサイバー技術の強化が挙げられます。また、東シナ海、南シナ海、西太平洋などの海域における海軍艦艇の行動や軍事基地建設といったアメリカの軍事プレゼンスに対抗するような覇権的行動も増えています。

経済面では、世界最大の貿易国であり、アメリカに次ぐ2位の経済大国となっています。中国は経済力を背景に、一帯一路構想やアジアインフラ投資銀行などの国際経済インフラを整備し、国際経済秩序への影響力を拡大しています。

一帯一路構想では、沿線国への投資や援助を通じて、中国の経済圏を拡大しようとしています。アジアインフラ投資銀行では、アメリカが主導する国際通貨基金や世界銀行に対抗する新たな国際金融機関を形成しようとしています。

中国政府はこれらの覇権主義的な行動を否定し、平和的発展を追求していると主張しています。しかし、中国の軍事力と経済力は急速に拡大しており、その覇権主義的な行動が他国との軍事衝突に発展する可能性があることから、国際社会の懸念が高まっています。

米中経済対立とは

2018年に貿易摩擦から始まった米中経済対立は、アメリカが中国の覇権主義的な傾向を深刻に問題視していることもあり、拡大と深化の一途をたどっています。

2017年に誕生した米トランプ政権は、対中政策を「関与」から「デカップリング」(分断)に転換しました。それまでの関与政策の下では、米国は中国の経済発展を支援し、これを通じて中国の政治経済体制を変えていくことを目指していましたが、デカップリング政策の下では、中国をけん制するために、米国は両国間の経済交流を制限する方針が軸となっています。このスタンスは、現在のバイデン政権にも受け継がれています。

バイデン政権は、2022年に発表した「国家安全保障戦略」において、中国を「世界秩序を再編する意図と、それを成し遂げるための経済・外交・軍事・技術力とを併せ持つ唯一の競争相手」と位置付けており、重要な技術やサプライチェーンを支配するなど、米国の経済安全保障に脅威を与える存在になった中国に対抗するために、同盟国と協力しながら、貿易・投資などを規制することを通じて先端技術の中国への流出を阻止しなければならないと主張しています。

米中経済対立が常態化する中で、両国の対立傾向は鮮明になってきており、その影響は第三国にも及んでいます。特に、日本は、経済安全保障政策において同盟国である米国と常に歩みをともにしているため、このような対立構造の渦中に巻き込まれることは避けられません。

それでは具体的に、米中経済対立はどのような影響を及ぼしているのか解説していきます。

対中投資への規制強化

米国政府は、対内・対外直接投資を制限することが、重要な技術の中国への流出を防ぐ有効な手段であると考えています。

2022年6月に米上院・下院の超党派議員グループが合意した「国家重要能力防衛法」(修正案)には、中国を含む指定された「懸念国」への投資などの取引について、国家安全保障を理由に対外取引を審査し、場合によってはその取引を禁止するための省庁間委員会を新たに設置するという条項が盛り込まれています。さらに、2023年3月に、バイデン政権は、米中間の競争が激化する中で米国の技術的優位性を守るための新しい措置として、中国の一部セクターへの米国からの投資を禁止する大統領令を準備していると報道されています。

金融の分野でも、米国政府は、米国投資家による中国株の運用と中国企業による米国での資金調達に制限を加えてきました。

トランプ大統領は2020年11月12日に、米国企業・個人に対して、中国人民解放軍の所有・支配下にある企業31社への証券投資を禁じる大統領令に署名しました。これを受けて、制裁対象となった中国国有通信会社のチャイナ・モバイル、チャイナ・テレコム、チャイナ・ユニコムは、ニューヨーク市場での上場廃止を余儀なくされました。

半導体関連の対中輸出規制の強化

軍事や航空宇宙、コンピューターなど、国家安全保障に深く関わる分野における半導体の重要性を考慮し、米国は中国に対し、半導体の技術と製造装置へのアクセス制限を強化しています。

米商務省産業安全保障局は2022年10月7日に、先端半導体技術の対中輸出に関する多数の規制措置を発表しました。中国のスーパーコンピューターの開発や、集積回路の開発・生産のための半導体・製造装置だけでなく、米国政府が指定する中国企業向けの半導体受託製造サービス、中国国内で稼動済みの先端製造装置のアフターサービス、米国市民が中国国内で先端ノウハウを提供するサービスも原則輸出禁止の対象としました。

そして、米国は2023年1月27日に、日本、オランダと先端半導体の製造装置の対中輸出を規制することで合意しました。これを受けて、オランダ(2023年3月8日)に続き、日本も2023年3月31日に米国と足並みを揃える形で、中国を念頭に、国家安全保障の観点から、先端半導体の製造装置への輸出規制を強化すると正式に発表しました。

日本経済への影響

 

米中経済のデカップリングは、サプライチェーンの分断や国際貿易と投資の鈍化などを通じて、世界経済に大きな影を落としており、特に米中ともに深い経済関係を持っている日本に及ぼす影響が大きいと言われています。具体的にどのような影響があるか見ていきます。

米中の板挟みになる日本

日本は、米中両国が各々主導するルールの下で板挟みになっています。米国政府が中国に対して制裁措置を取れば、日本政府は追随せざるを得ません。しかし、米国の対中制裁に協力すると、逆に中国の制裁対象となってしまう可能性が高いです。これは政府のみではなく、ビジネス的な取引を行う企業にとっても同様です。

例えば、米国による中国からの輸入品への最大25%の追加関税は、日本企業が中国で生産したものにも適用されます。これまで対米輸出基地として優れていたからこそ、中国での生産を選択し、投資をしていた多くの日本企業にとっては、大きな影響があります。また、逆も然りで、中国政府による米国からの輸入品への追加課税は、日本企業が米国で製造した製品にも適用されてしまいます。

その他にも、米国が問題にしている中国企業の製品や部品を使用している日本企業は、米国政府や米国企業との取引ができなくなるケースもあり得ます。

例えば、米国の「ウイグル強制労働防止法」の実施により、新疆で製造した製品はもとより、新疆産の原材料を使った日本製品も米国の輸入禁止の対象となります。

この場合、特に新疆産の綿に大きく依存しているアパレル業界への影響は大きいでしょう。原材料の調達先を他の地域にシフトしなければならないので、それに伴うコスト上昇は避けられません。

日本の経済安全保障政策の影響

日本企業は、米中対立の影響だけでなく、日本政府が進めている経済安全保障への取り組みの影響も受けています。

2022年5月11日に、①重要物資の安定的な供給の確保、②基幹インフラ役務の安定的な提供の確保、③先端的な重要技術の開発支援、④特許出願の非公開という四本の柱からなる「経済安全保障推進法」が成立しました。

「経済安全保障推進法」は、中国を名指ししてはいませんが、制定の経緯と内容から判断して、その矛先が中国に向かっていることは明らかであると考えられています。

現に、「基幹インフラ役務の安定的な提供の確保」に応じるために、金融機関のシステム関連や個人情報を扱う業務について、中国からの撤退や日本国内への移管を検討する動きが広がっています。

今後もこのようにアメリカに追従した経済安全保障政策を日本政府が取る可能性は高く、その影響は日本企業に及ぶと想定されています。

経営者が取るべき対策

ここまで述べてきたような日米中が進めている一連の経済安全保障の強化策に対応するために、日本の企業はどのような対応策を講じるべきでしょうか。

サプライチェーンのリスク点検・再構築

中国および米国内での生産物に対する追加課税や規制強化といった変化に対応するには、可能な限り自社のサプライチェーンのリスクを点検し、再構築を早急に進めるのが安全でしょう。

調達先を多元化したり、切り替えたりすること、国内での生産能力の拡充、海外生産体制の見直し、輸出先と取引先の見直し、研究開発体制の見直しなど、全体的な見直しは必須です。

米中に限らず、このような国際関係上のリスクは十分に発生し得る可能性があるので、サプライチェーンの見直しは定期的に再検討しておくのが良いでしょう。

徹底した情報収集

日米中の経済安全保障による規制強化の動向をしっかりとリサーチし、対応を検討できる体制を社内に構築する必要があります。

貿易において、取引制限の対象となる財・サービスなども頻繁に変更されるため、常に最新の情報の収集と影響範囲の洗い出しをリスクマネジメントの一環として組み込みましょう。

まとめ

今回の記事では、近年の中国の覇権主義的な行動に焦点を当て、主にアメリカとの関係性を中心に紹介しました。日本への影響についても説明しました。国際政治では、軍事と経済が絡み合い、緊張関係が高まると企業にも大きな影響を与えます。国際情勢に注意を払いながら、企業運営の再考を検討することをお勧めします。

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