環境対策に関する取り組みは、日本だけでなく全世界で注目されています。 地球規模での環境改善を目指して世界中が賛同しており、COP26が終了した2021年11月時点で、154カ国・1地域が2050年を期限として環境対策の一環として低炭素の取り組みを含めたカーボンニュートラルの実現を表明しています。
日本では2021年4月に菅前首相が暫定目標として、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減すると表明しました。 その目標を達成するためには、建設業界を含む全ての業界で環境対策の取り組みを積極的に推進していく必要があります。
本記事では、建設業界の大手企業の環境対策の取り組みについて、先進事例も交えて解説します。
建設業界が環境対策に取り組む意義
環境対策に関する取り組みは、全ての業界で均等に実践していく必要があります。 そのため、建設業界でも必然的に環境対策に取り組む必要があります。
なお、環境対策に取り組む際には、その意義を明確にすることが重要です。 建設業界が環境対策に取り組む意義として、以下の点が挙げられます。
・事業の持続可能性
・競争力および成長性の強化
・企業のブランドイメージの向上
・豊富な資金調達の機会
日本政府の方針としては、2050年を目途として温室効果ガス排出をゼロにすることを目標とし、環境対策に関する市場は将来的にさらに拡大することが予想されます。 これを背景として、建設業界は環境対策や省エネに関連する技術開発を含め、技術革新への積極的な取り組みが求められています。
資材・重機などと融合した新たなビジネスを確立することで、日本国内だけでなく世界的な競争力および成長性も向上させる動向が見られます。 また、環境対策は地球規模の観点からも気候変動対策として有効とされ、RE100宣言を発出しているテナントへの入居を希望する企業にとって、契約維持や新規契約などが効果的であり、企業のブランドイメージ向上にも貢献します。
一方、資金調達の観点からも、環境対策への積極的な取り組みはプラスの効果が期待できます。 建設工事では多額の資金が必要とされることが多いですが、中長期的な運用益および返済計画を投資家や銀行などの金融機関から確認される際に、積極的な環境対策が評価される側面もあります。 日本政府は、2050年を目途とした脱炭素を含む環境対策に取り組んでおり、建設業界も積極的に賛同する必要があると言えます。
建設業界大手企業の環境対策取り組み5選!
CO2削減を目指した環境対策の取り組みは、建設業界における喫緊の課題となっています。 また、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本政府は大きく舵を切っており、限られた時間内での成果実現が強く求められています。
そのため、建設業界では企業単位でさまざまな低炭素取り組みを実践しています。 以下で、建設業界大手企業の環境対策取り組みについて詳しく解説します。
1.CO2の可視化システム導入による環境対策取り組み
第一の事例は、環境対策としての低炭素取り組みの一環として、CO2排出量を適切に把握する手法を導入した鹿島建設株式会社です。
本システムの導入により、Scope 3への貢献が見込めます。 鹿島建設株式会社が実施している事業活動におけるCO2の排出の9割近くが、実施中の工事の施工現場から排出されていることが特徴的です。
施工現場で消費されるエネルギーの内訳は、電力が3割程度で、残りの7割程度は建設機械の稼働に使用する軽油などで占められています。 そのため、電力と軽油の消費量の削減が低炭素取り組みへの第一歩であると、鹿島建設株式会社は考えています。
エネルギー消費量を把握する手法としては、日本全国の施工現場からの調査データを活用し、サンプリングしたデータを基に会社内でCO2排出量を把握していました。 しかし、参照しているデータはあくまでサンプリングデータであり、実際の施工現場からのCO2排出量とは異なる場合があったのです。
そこで、鹿島建設株式会社は、実際に稼働している全ての工程で排出されているCO2を月単位で把握し、これを可視化できる環境データ評価システムedesを開発しました。
このシステムの導入により、各現場でのCO2排出量やアスファルト殻、コンクリート殻などの建設廃棄物の発生量、そして使用される水量を月単位で集計し、可視化することができるようになりました。 実際に稼働している現場でのCO2排出量を適切に把握することにより、更に効果的なCO2削減対策を実施することが可能となりました。
2.コンクリート含浸材による環境対策取り組み
第二の事例は、環境対策の一環として、CO2吸収を促進するコンクリート塗装を開発した清水建設株式会社です。
なお、これはScope 3への貢献を果たす製品となっています。
清水建設株式会社と北海道大学が共同開発した技術は、既存のコンクリート構造物を活用して大気中のCO2を吸収するための技術であり、DAC(Direct Air Capture)コートの開発に成功しました。
コンクリート構造物の表面に塗布された含浸材を介して、大気中のCO2をDACコート塗布前の1.5倍以上吸収し固定化することに成功しました。
この技術は、日本国内に点在するコンクリート構造物の活用が可能であり、そのストック数は約300億トンと推計されています。
これらのコンクリート構造物にDACコートを塗布することで、CO2吸収量が3億トン以上に達すると試算されており、非常に大きな環境対策取り組みへの貢献が期待できます。
3.CO2排出量を抑制したコンクリートの開発による環境対策取り組み
第三の事例は、環境対策の一環としてCO2排出量を抑制したコンクリートを開発した株式会社大林組です。
なお、これはScope 3に寄与する製品となっています。
コンクリートを製造する際には、セメントの使用が不可欠です。
セメント製造はCO2排出と密接に関連しており、高温で燃焼するプロセスが必要なため、CO2が排出されます。
そこで、株式会社大林組は、セメントの一部にCO2排出量が少ない高炉スラグ微粉末やフライアッシュを使用することで、通常のコンクリートと比較してCO2排出量を最大80%程度低減させる新しいタイプのコンクリートの開発に成功しました。
令和3年度における生コンクリートの需要量は7,900万m3であり、この新しいコンクリートを使用することで、環境対策取り組みに大きく寄与することが可能です。
4.具体的なCO2削減を目指した対応方針の策定による環境対策取り組み
第四の事例は、環境対策の一環として具体的なCO2削減を目標に掲げた対応方針を策定した株式会社長谷工コーポレーションです。
なお、この対応方針に基づく行動はScope 1, 2, 3すべてに寄与します。
2021年12月16日に策定された「長谷工グループ気候変動対応方針」、通称HASEKO ZERO-Emissionに基づき、SBTに準拠したCO2排出量削減目標を設定しています。
また、長谷工グループは2022年度以降に設計を開始する全ての分譲マンションや自社保有賃貸マンションについて、ZEH-M Oriented基準を満たすことを掲げています。
さらに、気候関連問題が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、温室効果ガス(CO2)の総排出量を指標として削減目標を設定しています。
具体的な目標は、2020年度を基準に、Scope 1 および Scope 2 では2030年度で42%削減、2050年度で100%削減を、そしてScope 3 では、2030年度で13%削減、2050年度で37%削減を目指しています。
この方針を遵守することで、環境対策取り組みに向けて大きく寄与できると期待できます。
5.CO2排出量を抑制した建設機械の開発による環境対策の取り組み
第五の事例は、環境対策の一環としてCO2排出量を抑制した建設機械を開発している株式会社クボタです。
なお、これはScope 3に寄与する製品となっています。
建設機械の動力源として、エンジンが主流であり、これがさまざまな形のエネルギーを機械的あるいは力学的エネルギーに変換する装置として機能しています。なお、モーターは電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する装置として知られています。
昔から建設機械には軽油を燃料とするものが主に使用されていましたが、これはCO2の排出を避けることができなかったのです。
しかし、株式会社クボタはCO2削減を目的として、電動式の建設機械の開発に積極的に取り組んでいます。電動式の建設機械を導入することで、大幅なCO2削減効果が期待できます。
まとめ
ここまで、建設業界の大手企業における環境対策の取り組みについて、先進事例を交えながら解説しました。
環境対策への取り組みは、CO2排出量を抑制する製品やシステムの開発、具体的なCO2削減量を掲げた方針の策定などさまざまです。
また、取り組みにおいて一定の成果を上げるためには、短期間では実現が困難なものも多く、中長期的な取り組みが求められます。
2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、一刻も早く低炭素社会への取り組みを開始することが重要と言えます。本記事が、建設業界で環境対策への取り組みを検討している方々の参考となれば幸いです。